第5話

全部、きみのせい。 4
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2018/12/26 01:06
赤築 冴(あかつきさえ)
赤築 冴(あかつきさえ)
昨日、大丈夫だった?
赤築さんに声をかけられたのは、次の日の通学路だった。後ろを歩いていた先輩が小走りで駆け寄ってきて、優しく話しかけてくれた。
昨日、先輩が言っていたことの意味はわからなかったけれど、今日のは、もうわかった。
笑って、大丈夫です、と伝えた。
それを聞くと先輩は安心したように微笑んでくれた。
そのまま一緒に登校して、図書室の前で別れることになった。頑張れよ、と言って頭を撫でてくれた。お兄さんみたいで、安心出来る。
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
ありがとうございます。
背中越しに手を振る先輩と別れて、階段を上っていくと、途中の窓からグラウンドが見える。今日は、正流はテニス部に助っ人に行っているらしい。
真っ直ぐにボールを見つめる視線に、点を取ったあとの無垢な笑顔に、思わず目を奪われた。

そうこうしていると、階段を下りてくる人の音が聞こえた。ふっと顔を上げると、吹奏楽部の朝練を終えた快だった。
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
あ、おはよう。
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
おはよう。
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
何、見てたん?
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
べっ、別に…
いきなりの質問に少しびっくりして、顔を伏せた。おずおずと顔を上げると、快も窓の外を見ているようだった。
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
じゃあ、また24日ね!
早口に言ってその場を走り去った。心臓がどくどく響く。これ、もしかすると私の体内だけじゃなくて、フロアに響いているかもしれない。そう思うほど、私の身体は快に会ったことを喜んでいる。











































新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
悠、今日一緒に帰ろ!
放課後、カバンからマフラーを取り出した私に話しかけた正流の笑顔は、少しだけいつもと違った。
カバンを持って歩き出した私たちには、どこかもどかしくなる距離がある。
正流が誘ったくせに、何も言わない。そのまま歩いた。目的地は、徒歩通学している私の家らしい。家の近くまで来て、信号に引っかかった。そこでやっと正流は口を開いた。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
俺がなんで誘ったかわかる?
こちらを見ないで呟いた。ポケットに入れた両手をぱたぱたさせて、返事を急かされた。
大体わかる。でも私の口は開かなかった。
しばらくたって、向かいの信号機の青が点滅し始めた。すると正流は白い息を吐きながらこちらを見た。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
俺、ちょっと怒ってんだよ?
やっぱり。
私は視線を右に泳がせて、この空気から逃れようとした。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
あそこまで言うことないじゃん。
俺だって、男なんだし…
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
わかってる。ごめん…
ピロンピロン、という音とともに信号が青になった。正流が先に歩き出した。私はそれを追うように小走りをした。
私の家の前に着いた。ばいばい、と言おうとした私を遮って、正流は小さい声で言った。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
悠、俺のこと、きらい?
下を向いたまま言われたから顔は見えなかったけれど、決して明るい声でなかったということくらいわかる。
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
そんなわけ、ないじゃん。
…好き…だよ?
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
嘘でも嬉しい。ありがと。
じゃあな。
それ以上私が話すことをやんわり止めて正流は振り返って、元来た道をまた歩いていった。その後ろ姿が見えなくなるまで、私は玄関の前に佇んでいた。


















































正流と仲直りを出来たのかわからないまま、もう24日になった。今、集合30分前。早く来すぎた私は1人でたくさんのカップルに囲まれて、みんなを待っていた。すると、快が来た。
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
よう。はやいな。
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
うん、快こそ。
クリスマスカラーで煌めく街の中、私たちは今二人っきり。それだけでときめいて、いっそこのままでもいいかな、なんて思ってしまう。いつも遅刻ばかりして怒られる正流も、今日遅刻したら褒めてあげてもいいかもしれない…
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
それ、似合う。
でも俺、髪おろしてる方が好きやで。
髪をくくっていたゴムを指さして、あたたかく微笑んだ。胸の奥がきゅんとして苦しくなった。そのせいで、ありがとう、の声が萎んでしまった。
でも、よし、これからは髪下ろしとこう…
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
よっ!お待たせ!
まだ待ち合わせよりも早いのに、正流がやって来た。なんで、今日に限って早いんだろう…そして、快を見て言った。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
あ、もう来てたんだ。
馬渕 美涼(まぶちみすず)
馬渕 美涼(まぶちみすず)
嘘でしょ!?
正流の後ろから姿を現した美涼は大きく目を見開いて驚いた様子だった。美涼は肩を落として呟いた。
馬渕 美涼(まぶちみすず)
馬渕 美涼(まぶちみすず)
まさか、新野に負けるなんて…
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
どんまい。ほら。
快はそう言って崩れた美涼のマフラーを直した。
もやっとしたけれど、こんなこと気にしていちゃいけない。気にしない振りをして歩き出すことにした。
馬渕 美涼(まぶちみすず)
馬渕 美涼(まぶちみすず)
ツリーの点灯まで時間あるけど…
どうする?
ツリーの点灯。
それにはジンクスがある。
街にはきらびやかなイルミネーションが光る中、メインのツリーはてっぺんの星だけがまだ光っていない。それは、まだ空が明るいからではない。
ちょうど7時半、そのライトは明かりを灯す。
そのときに告白し、結ばれた男女は永遠の仲になる、というものだ。
ベタだけど、私はそれを狙っている。
美涼も、協力してくれると言った。
時計は夕方を指し、空は薄暗くなってきた。
ツリーの周りにはたくさんのカップル達集まり始めていた。
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
もう、場所取っとこうか。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
へーいっ。
2人を先頭に私たちは1番人の少ないところまで歩いた。ふと美涼と目が合うと、目と口をきゅっとすぼめて微笑んでくれた。
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
でも、あと15分か。
意外とすぐやな…
ツリーを見つめる快を横目に、私は指先を温めるために手のひらに息を吐く。それを目ざとく見つけて正流がカイロを差し出してくれたけれど、首を振った。
馬渕 美涼(まぶちみすず)
馬渕 美涼(まぶちみすず)
あ、私、自販機で何か買ってくる。
正流、着いてきてよ。
私を見て軽くウインクをする美涼の笑顔は、頑張れ、と心の底から応援してくれていた。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
えーっ、なんで?
馬渕 美涼(まぶちみすず)
馬渕 美涼(まぶちみすず)
ひとりじゃはぐれたら面倒だし…
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
快が行ってよー。
その言葉に焦る美涼。
快は困ったように、でも嬉しそうに笑った。
ほら、やっぱり困ってるじゃん…
と、思ったのに。
下池 快(しもいけかい)
下池 快(しもいけかい)
わかった。行ってくるよ。
ほら、馬渕。
馬渕 美涼(まぶちみすず)
馬渕 美涼(まぶちみすず)
えっ、え?
正流に背中を押され、快には視線で引っ張られるように、美涼と、そして快は人混みの中に紛れてしまった。
そこでざわざわしてしまった私の胸の内は、誰にも言えない。

戻ってくるよね?
言わせてくれるよね?

そんな不安を身体に残したまま、目だけはいろんな所を泳ぐのだった。



















ダメだ。帰ってこない。
まさか、あれほど応援してくれた美涼が、とは思えないし、思いたくもない。それでも戻ってこないということは、私の中での最悪のパターンが有力な候補になってしまう。
とにかく、不安で、怖くてしかたなかった。



今思えば、正流は何も話さない私を不審に思っただろう。








新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
お、おーい、悠?
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
ん、あ、なに…?
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
いや、なんでも…
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
きょ、今日は髪…
ぱっと目を逸らされた。きっと私の異変に気づいただろう。でも、弁明するようなことでもないし、正流には関係ないし…
右手でポニーテールの束をとかすと、もう一度正流がこちらを見た。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
その方が、いいよ。
…きれいだし。
新野 正流(にいのただる)
新野 正流(にいのただる)
快は、おろしてる方がいいって言ってたけど…
御影 悠(みかげゆう)
御影 悠(みかげゆう)
なんだ、あれ聞いてたの…
まだ離れない視線は、冬だからだろう、とても、熱く伝わってきた。
なぜか私の心臓はどくどくと大声で叫ぶ。
正流の耳の赤さにつられるように、私の頬も赤みを帯びていくのがわかってしまう。

見つめ合った私たちは、もしかすると、カップルのように見えていたのかもしれない…

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