第172話

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2024/04/22 15:31
言いたいことは腐るほどあるけれど、真っ青な顔をしているあなたを今は労わろうと思う人の心はまだあった。


北斗「吐ける?」


ふるふると首を振るあなたをとりあえずソファーに座らせる。
タクシーに乗せ自宅に連れ帰ったはいいが、車の揺れも手伝って更に体調は悪化したようだった。



あなた「、きもちわるい」
北斗「ああもう可哀想に、」


絵に描いたように悪酔いしている。


北斗「ほらお水」
あなた「ほく、飲めない…飲んだら吐いちゃう」
北斗「水分取らないとダメ。ちょっとずつでいいから」
あなた「うう、」


あなたはつらそうに、それでも言うことを聞いてグラスを受け取りちびちび水を飲む。

こんなに可愛らしい子に無理にお酒を飲ませたりお酌をさせたりして、これを仕事の一環と呼ぶのは甚だしい。


北斗「お水飲んで横になろう」
あなた「ほく、ごめんね…」
北斗「お説教は元気になってから」
あなた「はい…」



ほんの僅かに先程よりは顔色は良くなっただろうか、
気持ち悪さより眠気が勝ってきたようで、あなたの瞳がとろんとする。


あなた「ほく、」
北斗「なあに」
あなた「ぎゅって、」


溢さないようにと受け取ったグラスを危うく落とすところだった。

とろんとして両手を自分に向けて伸ばしてくる、その可愛さの破壊力。



本当は行き場のない怒りや呆れが心の中で渦巻いているのに、息をついてグラスをテーブルに置いた。
一旦頭を抱えてから、もう一度あなたを見れば広げられた腕は変わらずで少し首を傾げるものだから余計に悶絶してしまう。




北斗「、はぁもう」



その腕の中に飛び込んで、丸ごと抱きしめる。

この身体に、触れていいのは自分だけだ。




北斗「、何もされてないよね」
あなた「…?」
北斗「隙だらけなの、何とかならない?」
あなた「うん…?」
北斗「、貴女じゃなかったら迎えになんて行かないよ」


恋愛で、小賢しい駆け引きは苦手だ。
特に北斗の中で感情の振り幅は分かりやすくゼロか百だから、正直他の男性の影なんて見えた時点で感情は冷え切っていく。

それが、彼女に対してはみすみす手放せない。



あなた「ほく、」
北斗「…捕まって。ベッドで横になろう」



恋愛テクニックも駆け引きの仕方も、あざとい小細工も、何にも持っていない、
どこにいても何をしてても危なっかしいあなたを、軽く抱き上げた。
不安定になる身体に、無意識にぎゅうっと抱きついてくる。







北斗「まだ気持ち悪い?」
あなた「うんん…」


あなたを寝かしてやってその前髪をそっと避ける。



北斗「明日お休みでしょ。ゆっくり寝てなね」



北斗自身も明日はオフだ。
頭の中を整理させる時間は十分にありそうだ。

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