ボクはハラを抑えながらトイレから出る。
ハハはどこかに電話をしていて、ボクがトイレから出てきたことに気づいていない。
今がチャンスだ…。
そう思ったボクは、カバンといつもは持たない貯金をもって家を出る。
冷たい空気がボクのハラに溜まっていく。
そのたびに出てきそうになるモノをグっと抑え、ボクはひたすらハシル。
コキュウを整えるために必死にクウキを吸う。
吸って…
吸って…
吸って…
クルシクなるくらい。
スッテ…。
吸った空気を吐いてしまったら、ホントウにハいてしまう気がして、怖くて。
ただ。
吸う。
クウキを吸いすぎて、頭がイタイ。
それとも、ボクがクルッてるからイタイのか?
わからない
分からない
ワカラナイ
ボクは、ふりかえる。
ナナは何も言わず、ボクの横を通り過ぎていく。
ボクは息を吐く。
吸って吐いてを繰り返す。
………なんで。急に。
ボクのツクエにはいつも通り落書きがされていて、カナとアカリがボクをあざ笑う。
ナントナク…。
このセイカツには慣れた。
だって、コイツラが…どんなやつだか、ボクはもう、知っているから。
そのまま、休み時間が始まるチャイムが鳴る。
ボクは廊下を通り抜け、カナに声をかける。
カナはボクに気づいていた。
だが、知らないフリをして去ろうとする。
そうはさせない。
ボクはハキハキと喋る。
カナは逃げようとする。
だが、ボクはそれを追いかける。
カナは涙目でボクの方を振り返る。
カナは周りをキョロキョロと見渡したあと、コクリと小さく頷く。
引っかかった。
ボクは笑みがこぼれないよう、必死に顔を作る。
カナの手はフルエテいる。
カナの手がフルエレばフルエルほど、ボクのココロは高揚する。
この感覚をボクは知っている。
昨日…ナナを押し倒したトキの感覚とよく似ている。
でも、ナナを押し倒したトキよりも明らかに、ボクは興奮している。
ココロオドル。
ああ。駄目だ…。
ココロのコエが勝手に漏れていく。
カナは唇を強く噛みしめる。
カナの目から涙目が一筋こぼれ落ちる。
その顔を見ると、ヤッパリ…。
ココロオドル。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!