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第1話

63
2023/05/04 14:54
 満点の星々が光り輝く幻想的な星空の下。月はなく、少し薄暗いが二十三階建てのビルの灯りは散らばって点灯している。

 その明かりの一つに会議室が含まれており、一人の男はそこでたくさんの紙を見ながら思考を巡らす。そんな中、一人の女が会議室に入ってきた。

 日本人のように扉をきっちりと閉めて、挨拶する。
ノリー
失礼します、アレイさん
アレイ
ああ、ノリーか
 彼女の名はノリー・スミス。彼女はマフィアの一員の一人で、スナイパーの仕事をしている。

 主に暗殺が目的であり、最近彼女とは仲がいい。
ノリー
お茶をお持ちしました
アレイ
ああ、ありがとう
 机に置かれた紅茶のカップを掴み、口に持って啜る。飲み干して、机の上に置き直す。
アレイ
(ニコリと微笑んで)美味しい紅茶だった。腕を上げたな
ノリー
ありがとうございます
アレイ
無表情で返事、返すなよ。あとタメ口でいいって何回も言ってるでしょ?
ノリー
すみませ……ええ、そうね。今度から気をつけるわ
アレイ
そうだ、せっかくきたんだからさ。俺の話、聞いてくれない?
ノリー
ええ、仕事もなく暇だったので。失礼します
 彼女は隣の椅子に座り、視線だけを向かい合わせにする。
ノリー
それで、話とは?
アレイ
ああ、一つ聞きたいことがあってね。人間を憎いと思ったことはあるかい?
ノリー
いえ。人間は等しく、平等に愛したいわ。憎いなんて思ったことないもの
アレイ
(目線を逸らして机を見ながら)そうか、幸せ者だな。俺は人間を全員殺したいと思っている
ノリー
(驚いた声で)えっ?どうして?
アレイ
(眉間に力を入れながら)あいつらは狂気を孕んでいるんだ。加虐心を満たしたいがために、不特定多数の人間をあやめている。あんなやつ、絶対許さない
 机を拳で叩き、アレイはすっと音を立てずに立ち上がる。ノリーの方を見て、睨みつけた。
アレイ
なんとしてでも俺に怪我を負わせた殺人鬼を捕まえて、抹消する。あいつを消すことができれば、俺には輝ける未来が残っているんだ!
ノリー
……それは本当に正しいことなの?私は間違ってると思う。話し合いで決めるべきよ
アレイ
(怒鳴り声で)うるさい!お前に何がわかるんだ
ノリー
ごめんなさい。私にはその気持ちわからない。でも寄り添うことくらいは出来るわよ
アレイ
ああ、そう。もういいや
 アレイは会議室の扉を開けて、こちらを振り向くことなく喋る。
アレイ
俺に優しくするなよ。もし俺が殺人犯と争って死んだとしても、それでいい。死は怖いものじゃねぇ。人生はとても短くていつか死ぬんだ。例え望まない死に方をしても、生きていた証はお前の中に残る
ノリー
アレイさん……死なないで
 彼女の涙目に応えるように右手を挙げて手を振り、会議室から出ていってしまう。残されたノリーは、会議室の机に置かれた資料が目に入る。
ノリー
これ何かしら……(手に取って眺めて)これは……!

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