特に話もせず、ぼーっと歩く。
話をしなくても焦らないのは気が合う証拠だろう。
それにしても暇だ。
いや、もう日も落ちたけど。
突然さとちゃんに袖を握られる。
ぱっとさとちゃんを見ると顔を真っ青にして座り込んでいた。
まるで何かに怯えているような…
しゃがんでさとちゃんの肩をトントンと叩く。
びくっと肩を震わせたさとちゃんは涙目だ。
その視線は一点を見つめている。
さとちゃんが震える手で指さした先には
真っ赤な血と赤い物が転がっていた。
何となく近づく。
と、さとちゃんに引っ張られる。
震えながら泣くその姿は子猫のようで、思わず撫でてしまう。
予想外の一言に内心驚きながらも、踏み出そうとする子猫に微笑んでしまう。
ふるふると震えながら首を横に振る。
袖をギュッと握りながら上目遣いで訴えるさとちゃん。
この世でこれに勝てるやつはおらんな。
そっと近づく。
耳?
真っ赤な犬耳の男の子っぽいな…
試しに耳を引っ張ってみると、ピクピクっと耳が動いた。
横から聞こえた聞き覚えのある声。
さとちゃんがびっくりして半泣きになる。
突然赤い人が呻き声をあげる。
声を出せるのか?
頭をそっと撫でると声を発してくれる
敵?
誰かに追われてるっぽいな
安心したらしい、
と、突然吐血し始める。
救急車呼んだらやばそうだし。
とは言ってもこんな血まみれの人を連れていく訳にも…
え、ワープ?何その漫画みたいな能力。
え、ぇ?
ただ真っ白な世界に意識が飛んだ。
トンッ
ジェルくんのお家のリビングに着く。
ドサッと音はしたが、声が聞こえないので振り向いてみると、さとみくんとジェルくんがあの人を連れて倒れていた。
頭を抑えながらゆっくり壁にもたれかかるさとみくん。
…俺ワープしただけだけど。
…元々猫人間だからなぁ…
何か魔力的なものがあるのかもしれない。
ユサユサ
体を揺らすと、顔をしかめるジェルくん。
ごめんなさい…(´;ω;`)
2人?3人?に謝りながら水を取りに行った。
真っ白い世界に連れられて、着いた先は見覚えのある玄関だった。
突然吐き気が襲ってきて、その場にしゃがみこむ。
周りを見ると、たぶんドヤ顔で立っている後ろ姿のなーくん。
横で倒れているジェル。
耐えきれず出たうめき声でなーくんが振り向き、
あわあわし始める。
だいぶびっくりしたみたい。
それよりジェル。
やばくね?
ぼーっとする頭を起こしながら、ジェルに声をかける。
意識はあるみたい。
漫画のように謝るなーくん。
高校生のくせに子供っぽくてかわいい。
元捨て猫だからな……
半泣きで謝るなーくん。
水を差し出してくれる。
待ってバカか。
また白い世界に飛ばされ、意識が飛んだ。
やったわ。
バカじゃん俺。
さとちゃん気絶しちゃった………
ジェルくんがさとちゃんのところにゆっくり行く。
そう言って赤い血まみれの子を指さした。
俺は半泣きで返事をして、赤い子の手当をしに行った。
さとちゃん…
さとちゃんの横に寝っ転がる。
寝てるのかな?
嫌な夢でも見てるのかな?
夢の中で何か嫌なことをされているのだろうか、
服をぎゅっと握って言う言葉には重みがあって。
特に強く、はっきり聞こえた。
さとちゃんの中で強く思っていることなのだろうか、、
無意識のうちにさとちゃんを抱きしめていた。
言おうと思っても、言葉が出なくて。
夢の中でも誰かに抱きしめられたのだろう、
涙声で震えながら問いかけている。
また言葉が朧気になっていく。
でも、声は涙声になっていき、手が震え始める。
さとちゃんが助けを求めた。
絶望のそこにいるような、そんな声で
そこで力はなくなり、静かに眠りに落ちた。
一通り手当てを終えて、点滴を繋いでぼーっとしていた時だった。
赤色の子が起き上がった。
思わず声が漏れる。
うわ゛ぁぁぁぁぁッ!
さとちゃぁ?!?!?!?!?!
悲鳴…とジェルくんの声。
そのまま部屋を後にした。
慌てて2人がいた部屋に駆け込むと、さとみくんがジェルくんに抑え込まれていた。
手を上で固定されている。
ジェルくんもいつもはさとちゃん呼びなのに、今はさとみ呼びになってる。
ただ事じゃなさそうだ。
情けない声が漏れた。
あんなに優しくてちょっと控えめなさとみくんが?
またさとみくんが暴れ出す。
あの赤い子!
赤い子はくすっと笑うと、さとみくんの方を見始めた。
今でもさとみくんは暴れている。
その時だった。
スルッ
ジェルくんがさとみくんの手を離してしまった。
ガタンッ
さとみくんがドアの方にダッシュする。
ガタンッ!ダンッ‥!
まさに音速で赤い子とさとみくんが消えた。
ジェルくんが口を抑えて崩れ落ちる。
ジェルくんの視線の先を見ると、
うつ伏せにされたさとみくんの頭に銃口が向けられていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。