顔を上げた柚稀は…
そう笑顔で言うと、床に落ちていたバケツを取り、教室の後ろからジャージを取るといなくなった。
柚稀の反応が面白くなかったのか沙月が不満そうな顔をする。
愚痴愚痴話す沙月とめぐみを、黒板を掃除していた琉依が不吉な笑みを浮かべて見ていた。
帰ってきた柚稀はジャージに着替え、バケツにたっぷりと水を入れて重そうに運んでいた。
そして…
わざとらしく足を滑らした柚稀。
バケツの水を思いっきりスマホを見て、騒いでいた沙月達にぶっかけた。
私は咄嗟に避けたものの、その勢いで振り回されたバケツにスマホが弾き飛ばされる。
パキ…ッ…!
慌てて拾うと、画面はついているけど、バッキバキに割れていた……。
沙月の怒鳴り声が教室を静かにさせた。
手には画面が真っ暗になったスマホが握られてる。
沙月が振り上げた右手の手首を柚稀が掴む。
他の3人も壊れたのか、濡れた制服や髪よりも先にスマホ電源ボタンを押しまくっている。
無残な形になったスマホを沙月に見せる。
すると、沙月はスグ柚稀に向き直り…
”スマホを5台弁償”は普通なら絶対に無理。
そう沙月は確信して、言ったのだろう。
「無理です、ごめんなさい。」と言う柚稀が見れると思っていたから。
でも、柚稀は当たり前のように自分の荷物のところへ行くと中を探る。
そして、取り出したのは少し大きめの紙袋。
怠そうに欠伸をして、柚稀が紙袋を差し出す。
その紙袋を沙月が柚稀から奪うように取り、中身を見ると、「え…」と小さく声を漏らした。
沙月が紙袋の中から取り出したのは、5つの箱。
その箱には私達がそれぞれ使っているスマホと全く同じ写真が印刷されている。
そして、フィルムでラッピングもされていた。
つまり…新品だ。
柚稀はそう言い沙月を押し退け、自分が撒いた水を雑巾で拭き始めた。
柚稀は冷たい目でそう言ったが、その視線は沙月に向けられていた。
心当たりがあったのか沙月が声を漏らす。
めぐみは激怒していたが、沙月に対しては聞くことが出来ないのか、頬をピクピクと震わせながら怒りを抑えている。
その一言で沙月はものすごく怒っていたが、取り敢えずはそこで終了した…。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。