私はすちくんの部屋の前に立って、すぅっと大きく深呼吸する。

―――今日こそ、すちくんを、デートに誘うんだっ…！


　すちくんの彼女になれたものの。
　デートとか、まだできてない。
　すちくんが忙しいのは百も承知二百も合点だけど。

―――もうすぐすちくんの誕生日だから。


　私は思い切ってドアを開けた。

　すちくんがくるりと振り返る。

　あっさりOKしてくれて、うれしくて顔がほころぶ。
　とびきりのおしゃれしなくちゃ…！

　日曜日。

　私は全身鏡の前でくるりと回る。
　変なとこ、ないかな…？

　バイト代で新しく買ったワンピースに、メイクはナチュラルに仕上げて、髪型はくるりんぱにしてみた。

　少しでも、可愛いって思ってくれたらいいなっ…

　すちくんがこっちに来てくれたとき、一瞬すちくんの動きが止まった気がした。



　家を出て、二人で歩く。
　今日行くのは、水族館。
　定番かなーとは思いつつ、二人でゆっくり楽しめるのは水族館かなと思い、決定した。


　電車やバスを乗り継ぐこと2時間。
　辺りはすっかり自然がいっぱいになって、かなり街の外れまで来た。

　建物が見える。

　入館する。
　入ってみると、まずクラゲの水槽が見えた。

　それからも、色々回って楽しむ。

　正午を過ぎたので、お昼ご飯にする。
　館内にあるレストランに入る。

　本当はディナーを頂きたかったんだけど、すちくんは配信があるから、お昼になった。


　そして―――ここでプレゼント、渡すんだ…！
　すちくんの誕生日はもうすぐ。
　当日は配信とかで忙しいから…今渡したい。
　手作りのクッキーにした。

　注文を終え、少し待ち、料理が届く。
　
　二人で他愛もない話をしながら楽しく食事した。

　すちくんが包装紙を剥がす。

　え？クッキー、バッキバキじゃん…
　ひどい所は粉末状になってしまっている。

　素早くクッキーをしまった。

　あぁ、今日頑張ったのは無駄じゃない。
　クッキーが砕けたぐらいでめげちゃだめだ。

　笑顔になっていった。

　負けないくらいの笑顔で返してくれた。

　そーっとクッキーを出す。
　欠片を一つつまんで口へ放り込む。

　すちくん、すごく笑顔で食べてくれた。

　頑張って焼いてよかったな…


　すちくんが笑顔になるなら、シャトルラン百回いけるかも、なんて思ったり。


　これからも、笑顔で過ごしたいな。