サアッと風が吹いて、折坂くんの前髪が揺れる。
微かに目があらわになったと思ったその時。
折坂くんは、ふぅ…っと小さく息を吐き出した。
溜息交じりに呟いた彼の声色が妙に柔らかくなっていて、私は思わず言葉を詰まらせた。
さっきまでの余裕のない様子は欠片も見えない、優しい声で。
それはまるで──。
あの日、私に告白してくれた時の、折坂くんのようだった。
確認するように名前を呼ぶと。
折坂くんはゆっくりと顔を上げた。
目が合うと、にこっと目尻を下げて笑う。
顔は折坂くんのままなのに、表情一つでこんなにも別人みたいに雰囲気が変わるものなのかと、私は驚いてすぐには言葉も出なかった。
柔らかく目を細めながら、折坂くんは一言そう言った。
何が違うのか意味がわからず、私は眉を寄せる。
折坂くんの一人称が、俺から僕に変わっていた。
さっき折坂くんの言った言葉が頭の中に蘇ってきて、私の心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。
だって……これじゃ、ホントに別人みたいじゃない。
まるで、『誰か』が折坂くんに乗り移ったみたいに。
上擦る声で当然の疑問を投げ掛けると。
今まで穏やかに笑っていた彼が、初めて少し寂しそうな笑みを浮かべた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。