第19話

第三章 もう一人の、彼-8
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2018/11/21 04:37
サアッと風が吹いて、折坂くんの前髪が揺れる。
微かに目があらわになったと思ったその時。
折坂くんは、ふぅ…っと小さく息を吐き出した。
?
全く……。君にあんな乱暴なこと言うなんて、許せないな
溜息交じりに呟いた彼の声色が妙に柔らかくなっていて、私は思わず言葉を詰まらせた。
さっきまでの余裕のない様子は欠片も見えない、優しい声で。
それはまるで──。
あの日、私に告白してくれた時の、折坂くんのようだった。
長谷部鈴
長谷部鈴
お……折坂くん……?
確認するように名前を呼ぶと。
折坂くんはゆっくりと顔を上げた。
目が合うと、にこっと目尻を下げて笑う。
顔は折坂くんのままなのに、表情一つでこんなにも別人みたいに雰囲気が変わるものなのかと、私は驚いてすぐには言葉も出なかった。
?
────違うよ
柔らかく目を細めながら、折坂くんは一言そう言った。
何が違うのか意味がわからず、私は眉を寄せる。
長谷部鈴
長谷部鈴
違うって……どういうこと? 何が違うの
?
僕は……『彼』じゃない
長谷部鈴
長谷部鈴
え?
折坂くんの一人称が、俺から僕に変わっていた。
さっき折坂くんの言った言葉が頭の中に蘇ってきて、私の心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。
だって……これじゃ、ホントに別人みたいじゃない。
まるで、『誰か』が折坂くんに乗り移ったみたいに。
長谷部鈴
長谷部鈴
彼じゃないって……あなたは折坂くんじゃないの?
?
うん
長谷部鈴
長谷部鈴
じゃ、じゃあ……じゃあ一体、誰なの?
上擦る声で当然の疑問を投げ掛けると。
今まで穏やかに笑っていた彼が、初めて少し寂しそうな笑みを浮かべた。
?
……わからないんだ
長谷部鈴
長谷部鈴
わからない?
?
うん。自分が誰で、どんな名前だったのか……まるで思い出せないんだ
長谷部鈴
長谷部鈴
…………
?
気が付いたら……僕は彼の中にいた

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