家、帰ろっかぁ…。
寒くないか?
風邪ひくなよ?
だ、大丈夫です。
なんだかんだ心配してくれる兄さんは、そこらの悪霊とは違い優しい。
にしても頼まれたのに何もしないで帰るなんてナンセンスじゃない?
うちらのプライドにかけても、約束はちゃんと守りたいって思う。
たしかにそうだね。
一度その悪霊たちの分霊を見て帰ろうか。
わっ、わかりましたぁ!
ただでさえ不気味な家に、足を踏み入れる。
(いくら悪霊が小さい頃から見えるからといって、なんでもかんでも怖くないってわけじゃないんです)
きしり、と嫌な音が鳴って、パシリくんは息を呑む。
いらっしゃい
!?
おまえ…悪霊?
人聞きが悪いわよ、そんな大嘘、誰から聞いたの?
いや、悪霊だなんてあのロリ言ってなかったよ。
……確かに。
分霊を置いておくとは言っていたけど、悪霊だとは限らない。
あんなに禍々しい霊を持っていたら、そう勘違いするのも無理はないと思うけど、この女の子には申し訳ない勘違いをしてしまった。
ごめんなさい、あのっ、女の子にこのお家の管理を任されたんです、これからよろしくお願いします。
話は盗み聞きしてた。
よろしくね。
よろしくです!
抜け駆けなんてよくないね、あたしの獲物だよ
!?!?
あ、あの僕っ、タマシイが薄いみたいなので食べてもおいしくないですよ…?
新しくこの家を管理してくれる人なの。
もう少し敬意を持って接するべきだと思うよ。
へぇ。そうやって純愛守り抜いてもいいことないわよ?
ねぇちょっと…!
私がどんな霊か知って言ってるの?
知ってて言ってるんだったら趣味悪いわよ?
喧嘩すんなよ…めんどくさい…
白衣のひとと、花魁さんは仲が良くない…と、めもめも…。
混沌が訪れてる…。
仲良くとは言いませんが、喧嘩は良くないと思いますよ。
あと聞きたいんですけど、他の霊っていますか?
二人はギリギリと取っ組み合いを始めていて、収拾がつきそうにない。
いるよ…!
男の子と、武士!それに僧や変人も!
痛いじゃないかい…!
あ、こらっ、蹴るんじゃないよ!
痣ができて傷ものになったらどう責任取ってくれるんだい!
知らない!
というかあなたは今お客なんていないんだからいいじゃない!
…先に他、行こうか。
そのほうがいいと思う!
あっ、ちょっと待ちな!
なんだ、何か用か?
兄さんが足を止める。
流石に待って、という声は僕もスルーしづらく、話を聞こうという流れになりかけたその時。
勇者くん、そこは任せた。
お姉さんはきりがないと感じたのか、兄さんにすべてを託して他の部屋へと僕らは向かった。
あの人達を兄さんが対応って大丈夫ですかね…。
兄さんは女性には甘いから、振り回されて帰るときにはゲッソリしてるだろうね。
だれ?
パシリくんと話しながら話していると、曲がり角からすっと男の子が出てくる。
あっ、あっ…。
ぼ、僕たち、今日からここを管理するんだ…。
よ、よろしく…ね?
おかあさん?
僅かながら、男の子から悪霊の雰囲気を感じ取る。
話が通じないのかもしれない。
僕…、君のお母さんじゃないです。
おかあさんじゃ…ない?
おかあさんに、見える…。
……?
精神病?
そんなこと本人の前で言っちゃ駄目だよ、姉さん。
いやだってほら、勇者くんの病院で一時期勉強してたけど、どう考えてもこれって…。
…!
僕、君のお母さんじゃないよ。
僕は自分でパシリくんはって言うから、パシリくんっていう人がいたら僕だと思って。
……?
パシリくんは、君のお母さんじゃないよ。
……うん。
パシリくんは、自分と他との見分け方の違いを男の子に教える。
ぼっ、僕は、ハクです!
ハクは、ハク…。
…?うん。
私は姉さん!
姉さんって呼んでね。
…う、うん。
下に勇者もいるよ。
…そんなに覚えられない。
大丈夫!
姉さんたちはまた近いうちにくる!
君が姉さんたちのこと忘れないようにするよ!
……うん。
姉さん、楽しそうですね、ハク様。
…そうだねぇ。
僕たち、先に行ってましょうか。
…のほうがいいかもね。
あっ、うん!姉さんはまだこの子と遊んでる!
あとは武士と僧と変人がいるんだったよね!そっちはよろしくね!
はぁい…。
…2階に来たけど、何もないね。
本当にまだいるんですかね?
殺してくれ…。
低くて男らしい声が、奥から聞こえる…。
あっ、あの…、僕ら、今日からこの家の管理人をするんですけど。
…そうか。
反応、薄いですね。
うん。
…なっ、仲良く…して、いただけ、ませんか?
…殺してくれ。
僕には…そんなこと、できません…。
俺を、殺してくれと、言っている…。
……また今度来ます。
その時にお話を伺いますね。
…あぁ。いくらでも来るといい。
僕ら、全員にお話を伺いたいんですけど、あと他の人ってどこにいるか分かりますか?
やめておけ。あいつらは話が通じる人間ではない。
そうですか…。
しんみりとした感じに襲われて、自然と従いたくなるオーラを持っている。
じゃあ、帰りますね。
そうするといい。
姉さん、帰りましょ。
挨拶は終わりました。
う~ん、姉さんまだこの男の子と遊びたい♡
先にお家に帰ってて♡
駄目ですよ~、ハク様をお守りしないと!
ハク様が敵組織にやられちゃってもいいんですか?
そっ、それはちょっと困る!
ですよね、兄さん回収して早いところ撤収しましょう
ありがとうございます姉さん、いつも守ってくれて。
いやいや~、姉さんの仕事は人の命を守ることだから、まっかせといてよ!
兄さん、帰りますよ~
あ、ああ。
この男はもらったからね!
本人が肯定していないんだからそんなの許されるわけないの!
いや俺は別に勇者としての宿命を果たせれば他はどうでもいいが。
少しは否定してよっ!
じゃあ否定しておく。
贅沢だね、勇者くんは美女二人に囲まれて…。
贅沢なのか…?
これがムジカクケイってやつですかね。
おっ、なろう系みたいだなそれ!
ってことで勇者様はパーティにお戻りになられないと。
サブクエストは達成しましたから。
了解した。
あっ、ちょっと!
まだ話は終わってないんだって!
そうだよ!
また今度来ますから…。
こうして、てんやわんやな受胎告知の家の訪問は終了した。
その後、一週間に一度でいいと言われた管理だが、僕たちは仲良くなった霊たちと交流するため、毎日のように通うことになるのだった。
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