彼が此処に居ないことは判っていた。
だけど、もしかしたらという思いが消えてくれない。
取り敢えず私は探偵社へ向かった。
治くんが居る可能性は低いと思うけど。でも、乱歩さんに頼めば直ぐに見つけてもらえるかもしれない。
怖くて堪らなかった。
治くんがこのまま消えちゃうんじゃないかって
私のそばから離れていっちゃうんじゃないかって
そう考えてみると、
私は思わず涙を溢した。
不安で
不安で
仕方がなくて……
どうしようもない気持ちを抱えて歩いた。
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in武装探偵社 扉前
先程からドアノブに手をかけて、引いてを
繰り返していた。
扉の向こうに治くんが居るかもしれない
笑顔で迎えてくれるかもしれない
もしそれが出来たら、何れだけ安心できるだろう。
でも、そんなものは希望にしかすぎないことを知っている。無駄に希望を抱けば抱く程、後に後悔することも。
だからそんな希望は捨てなければならない。
そんなことは判っているのに、
そんな単純なことが出来なかった。
その時、ガチャと扉が開いた。
私はまだ開けていない。中の誰かが扉を開けた。
私は扉の隙間から見える人物を
前のめりになりながら待った。
そう言って乱歩さんは私の横を通りすぎた。
その時、私は思わず
乱歩さんに聞くことを躊躇しそうになった。
私は乱歩さんに聞こうと思ったそれを躊躇した。
私はその伝言を聞いて直ぐ、港へ走り出した。
その大切な想いを胸に抱えながら。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。