第13話

美味しくて、優しい味
305
2022/04/30 04:05
初めて家に男子を入れた。
しかも、台所に……。
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
なんか、
食いたいもんある?
立花 杏里
立花 杏里
オムライス……
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
え?
立花 杏里
立花 杏里
オムライス!
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
お前、卵好きなんだな
立花 杏里
立花 杏里
っ……うるさい
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
米ある?
立花 杏里
立花 杏里
あ、あるよ──
手慣れた、軽快なリズムが聞こえる。

パカッ。
卵の殻が割れる音。


カッカッカッカ。
卵を菜箸でかき混ぜる音。


チッチッチッチ。
コンロに火を点す音。


シャー、キュッ。
水が流れて蛇口が止まる音。



すごく安心する音。
立花 杏里
立花 杏里
ねぇ、秋山──
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
なに?
立花 杏里
立花 杏里
その……
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
日野と深雪のことか……?
立花 杏里
立花 杏里
あ、うん──
予想外に、秋山は

なんの抵抗もなく
日野くんと深雪との昔のことを話してくれた。

3人が仲良かったなんて、全然知らなかった。
立花 杏里
立花 杏里
私のせいで、
秋山の沈黙……破ってごめん
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
は……?
どうしてお前が謝るんだよ
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
あいつらには
言いたいこと言えたし
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
ちょうど、よかった
立花 杏里
立花 杏里
でも、
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
いいから、
気にすんな
ただ口の悪いドS男子かと思えば、
そうじゃなかった。

喧嘩した友達との約束まで守るし、
自分のこと曲げてまで私のこと庇ってくれたし、

わざわざ学校抜け出してまで
心配しに来てくれる。


全然、いいヤツで
なんかムカついた。



テーブルに突っ伏しながら、
台所に立つ秋山の姿を見つめる。

黙っていれば、イケメン。

それに、

「本当に料理が好きなんだ──」

そう思った。
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
ほら、出来たぞ
立花 杏里
立花 杏里
ハッ!
昨日、眠れなかったからか
いつの間にか寝ちゃってた。
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
ほら、
立花 杏里
立花 杏里
え!!?
立花 杏里
立花 杏里
なにこれ! 可愛い!
テーブルの上に差し出された
お皿には、とろっとろの卵が掛かったオムライス。

色付けられたオレンジ色のライスは、
クマの形になっている。

我が家の台所で作られたものとは思えない。
お皿もうちの食器じゃないみたいだ。
立花 杏里
立花 杏里
これ、キャラ弁ってやつ!?
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
弁当じゃないけどな
スマホで何枚も写真を撮った。
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
冷めるぞ
立花 杏里
立花 杏里
どうしよう
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
は?
立花 杏里
立花 杏里
もったいなくて食べられないよ
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
また作ってやる
立花 杏里
立花 杏里
え?
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
俺はこれしか得意なことねえし
立花 杏里
立花 杏里
ねえ、ホントにまた作ってくれんの?!
立花 杏里
立花 杏里
ホントに……?
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
ホントに
立花 杏里
立花 杏里
いつでも?
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
ああ、いつでも──
立花 杏里
立花 杏里
言ったよ!?
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
ああ
立花 杏里
立花 杏里
それじゃ、遠慮なく!
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
うわ、頭からいった
立花 杏里
立花 杏里
んん……
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
立花 杏里
立花 杏里
美味しい……
秋山 翔太郎
秋山 翔太郎
そうか

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