初めて家に男子を入れた。
しかも、台所に……。
手慣れた、軽快なリズムが聞こえる。
パカッ。
卵の殻が割れる音。
カッカッカッカ。
卵を菜箸でかき混ぜる音。
チッチッチッチ。
コンロに火を点す音。
シャー、キュッ。
水が流れて蛇口が止まる音。
すごく安心する音。
予想外に、秋山は
なんの抵抗もなく
日野くんと深雪との昔のことを話してくれた。
3人が仲良かったなんて、全然知らなかった。
ただ口の悪いドS男子かと思えば、
そうじゃなかった。
喧嘩した友達との約束まで守るし、
自分のこと曲げてまで私のこと庇ってくれたし、
わざわざ学校抜け出してまで
心配しに来てくれる。
全然、いいヤツで
なんかムカついた。
テーブルに突っ伏しながら、
台所に立つ秋山の姿を見つめる。
黙っていれば、イケメン。
それに、
「本当に料理が好きなんだ──」
そう思った。
昨日、眠れなかったからか
いつの間にか寝ちゃってた。
テーブルの上に差し出された
お皿には、とろっとろの卵が掛かったオムライス。
色付けられたオレンジ色のライスは、
クマの形になっている。
我が家の台所で作られたものとは思えない。
お皿もうちの食器じゃないみたいだ。
スマホで何枚も写真を撮った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!