第33話

関係>進展?
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2023/03/25 00:00


side那須


「で、那須の好きな人って誰なの?」


取り調べを受けるみたいなノリで質問される。

向かいの席の龍我が謎に真剣な顔で聞いてくるもんだから、困惑してしまう。


『いや…知ってどうすんの』

「那須の初恋の応援をしたいの」


龍我に真っ直ぐな目で即答されてしまって、さらに困惑してしまう。


…でも、言えなかった。

ひとつは相手が男性だから。

もうひとつは俺は彼の「大切な人の代わり」でしかないから。


まぁ下心あって近づいた様なもんだけど、それでも藤井くんのことは傷つけたくなかった。


「……でも、告白しないと前進しなくね?もうすぐ卒業しちゃうよ?」

『んまぁ……そーなんだけど………って、え?』


キョトンとした顔で浮所が俺を見て、その後すぐ「あ、やべっ」と零す。


『え、まって俺の好きな人バレてんの?ねぇ?は?』

「…まぁ、そうじゃないかなーって話はしてた。」


大昇が炭酸ジュースを飲みながら言った。

あ、頭が追いついてない…


『俺そんなにわかりやすい???マジで?』

「うん、まぁ。」


大昇にそう返されてはぁ、とため息を着くことしか出来なかった。

そんなにわかりやすいって……俺大丈夫かな…

もしかしたら藤井くん、無理して俺に付き合ってないだろうか。


「え、じゃあその藤井先輩?が那須が好きな人ってことでいーの?」


龍我に聞かれて、俺は頷くしかない。

いや、金指くんが1番驚いてるのやめようよ…

金指くんはぽかんとした顔で俺を見ている。



「で、どーやって告るの?」

『え、決定事項なの?』

「うん!」


浮所が目をキラキラさせながら言う。

多分コイツは恋バナがしたいだけ。


『……いや、告白はしてるんだけど』

「「「「してるの!?」」」」


大音量で驚かれて、こっちが驚く。

周りの人が少し引いた目でこっちを見てるから、真面目に気まずい。


『いや……してはいるんだけど………俺が寝ぼけてたから…勘違いだと思ってると思う…』

「ちょっと言ってる意味わかんない、俺にもわかるように説明して」


龍我はしかめっ面で言う。金指くんもその隣でうんうんと頷いていた。


『図書館で勉強会してた時に俺が途中で寝ちゃって、藤井先輩に頭ポンポンされて起きたんだけど……あまりにも衝撃的すぎて夢だと思っちゃって…気づいたら告白してた…』

「金指、言ってる意味わかる?」

「いや、わかんないです」


そうだよな…と俺も呟きながらジュースを飲む。


「え、簡単な話じゃん」


浮所がキョトンとした顔で言った。


「もっかい告白すればよくない?」

『それがムズいって言ってんだよっ!』


俺の言葉に、大昇が頷く。


「でも、そうじゃないと進まないでしょ?付き合いたいんなら突っ込んでかなきゃ」

「俺は那須のペースでいいと思うよ?…無理にするものじゃないし」


浮所の隣で大昇が言う。


…正直なところもう限界だった。

好きって気持ちを自覚し始めてから、アホみたいに藤井くんのこと考えまくってて、もう“優斗先輩の代わり”じゃ終わらせたくなかった。

ものすごく身勝手な話だけど、この気持ちに嘘はなかった。


『告白はしたい、けど………』

「まぁ、当たって砕けろって言うし!那須も頑張ればいーじゃん?」


龍我、よく当たって砕けろなんて知ってたな…。

最後のチャンスと思って、告白してみるのもいいかもしれない。

まぁ、拒絶されちゃ終わりなんだが。


決意の気持ちもこめて、俺は頷いた。


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数日後、二学期もいよいよ終盤に差し掛かってきて、すごく寒い。

けど今日は優しく暖かい日で、なんだか昼寝日和だな~とか思う。


藤井くんと初めて会った校舎裏のベンチに、俺は横たわる。

告白っていっても、むずかしーんだよな…。


結局ずっとこのことばかり考えている。考えるのももうそろそろ疲れてしまった。

……昼休みが終わるまで昼寝しよう。

そう思って、瞼を閉じようとした。



「那須?」

『うおっ、え?』


好きな人の声が降ってきて、びっくりしてベンチから転げ落ちそうになる。


「あははっ、ちょっと、ふふっ、大丈夫?」


困り眉で藤井くんは笑う。

好きだなぁ、なんて今ここで声に出せたら楽なんだろうけど。


少し冷たい風がなびく。


言いたい、好きって言いたい。

伝えたい、けど、喉のここまで出てきてんのに。

引っかかって音にならない。



「なんか、図書館で勉強した日みたいだね」

『……え?』


藤井くんは、ベンチに寝っ転がったままの俺を覗き込んだ。








「あの時、那須寝ちゃってさ?起こしたらいきなり…___」




『告りましたよ、…藤井くんに』




「…え?」

『先輩は気づいてないかもですけど、好きなんですよ、……先輩が。」




ちょっと声が震える。


風が俺らの隙間を通って、消えていった。

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