「ありがとう」
姉は錠剤を口に含むと、水で流し込んだ。
ゴクリと姉の喉が上下するのを見て、僕は満足げに頷いた。
それから姉は部屋着に着替えると、シャワーも浴びずに僕が敷いておいた布団へ入った。
僕も電気を消すと隣の布団に潜り込んだ。
しばらくして寝息が聞こえてくる。
僕は横になったまま静かに息をした。
ただ目は閉じなかった。
窓の外から射し込む月の光。
照らされたくすんだ壁をじっと黙って見つめた。
姉が布団に入って一時間ほど経った頃、僕はゆっくりと身体を起こした。
スヤスヤと眠っている姉の規則的な息遣いが鼓膜を心地いい。
「姉貴」
呼びかけたが、返事はない。
次に肩を揺すってみる。
だが、起きる気配はない。
続けざまに勢いよく布団を剥ぎ取った。
「おい、姉貴っ」
そして、少し乱暴に呼びかけた。
それでも姉は全くの反応を示さなかった。
僕は肩の力を抜いた。
ゆっくり息をする。
それから、一度瞬きをすると、姉の服に手を伸ばした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。