深い息を吐いた。
隣では、ソファーの背にもたれかかる姉がアルコールの匂いを漂わせている。
甘い香水の香りも混ざっていた。
先月咲夜に買ってもらったものだ。
僕はこの匂いがきらいだった。
嗅ぐたびに咲夜という存在を思い出すからだ。
「春樹ー、お水ちょうだい。喉乾いちゃった」
「うん」
僕はソファーから立ち上がるとキッチンに行き、コップにお水を入れた。
一度姉のほうを見る。
目を閉じているのを確認して、僕はポケットからチャック付きの小さなビニール袋を取り出した。
その中に入っている白い錠剤を一粒をつまみ出す。
ビニール袋をふたたびポケットに仕舞うと、姉のそばに行った。
水の入ったコップと錠剤を差し出す。
「はい」
「なにこれ」
「いつもの消化剤だよ。ほら」
姉の手のひらに錠剤を置いた。
姉はそれをしばらく見つめたあと、僕に優しく笑いかけた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!