頭が冷静になるほど身体は熱くなる。
バスルームから出てきたあなたを見た時は心臓が止まるかと思った。
シンプルに言えば、あまりにも可愛くて。
多分俺の口は馬鹿みたいに開いてたと思う。
黒のドレスに身を包んだ彼女を見て、いつもと違うその凛とした雰囲気と、何よりどストライクのデザインに、正直言って理性を保つのに必死だった。
うるさい胸の音を抑えながら様子を伺っていると、あなたがネックレスを着けるのに手間取っていたから声を掛ける。
俺のベッドをぽんぽんと叩くと、素直な犬みたいに少し頬を赤らめながら寄ってくる。
艶やかなうなじが目の前に覗くと本能的に唇を寄せたくなって、今にもむしゃぶりつきたいほど美味そうなんだけど
…さすがにやべぇ奴だな。
ゼロに近い理性が勝って首から手を離したのに、振り返ったあなたと目が合うと吸い込まれそうで金縛りにあった。
これ以上はまずいとなんとか目を逸らして、どうしようもなく惹かれるその格好を褒めると、あなたは照れた表情でかなりキツい言葉を置いた。
あぁ、悪い
俺じゃないよな
褒められたい相手は俺じゃなくて……
そこまで考えると、いつもみたいに消極的になるんじゃなくて、何か腹の底から沸々と湧いてくるものがあった。
今すぐ目の前のあなたを引き寄せて抱き締めて
俺のものにしたい
お前を見てるのは俺だけで十分だろって
耳元でわからせてやりたい
そんな野蛮な考えが脳内に蔓延る。
低く暗くなった声を自覚して、かと言って冷静にもなれず、気付いたら本心を曝け出していた。
あなたの表情を1ミリも逃さないようにと真っ直ぐ見据えると、戸惑いながらも照れたような顔が俺の前に表れた。
徐々に変化する表情。
ほんと、こういう時まで飽きないよ。
ピンクになった目元が何故か潤み始めた。
赤い顔が歪むのも可愛くて仕方ない。
待って、と言って言葉を詰まらせながらついに流れた一筋の涙を見た時、やっと分かった。
ジョングクの声が響いて俺の頭がやっと冷静になっていく。
『一緒にいると、分かりますよ。相手の気持ちが。』
分かる前に突っ走った俺を、結果は変わらないからセーフだともう1人の俺が宥めた。
「見てもらいたかった」「褒めてもらいたかった」過去形を使った意味が、ちゃんとあるってことだよな?
前とは違う距離感で、あの時のようにあなたの涙を指先で拭う。
口元を隠して俺の目を縋るように見つめてくる彼女の頬を右手で包み、気持ちを全て込めて見つめ返した。
邪魔なあなたの手をどけて、額同士をくっつけたら至近距離で目元と口元を確認する。
いくら仲の良い隣人でも、さすがにここまで近付いたことはねぇな。
すっぴんの肌触りとあなたの良いにおいが俺を安心させた。
こんなに近付かなきゃわからないなんて、神様はずるいな。
俺達はどうしてこんな遠回りをしてきたんだろう。
一歩ずつ距離を縮めて、やっと手に入れた最高のギフト。
頼まれたって誰にも渡さない。
驚きながら笑顔になるあなたの唇を親指でなぞって、そっと口付けをした。
俺の証だとでもいうようにマーキングするなんて、余裕がないと言えばそうだけど。
まだ実を結んだばかりの甘い果実を育てるには、これくらいしなきゃダメだろ。
腕の中に引き寄せて一度強く抱き締めると、俺の背中にも腕が回ってきた。
名残惜しいままに身体を離し、最後に額にもキスを落とすと、あなたは「甘すぎ…」とかなんとか言って、果てしなく照れていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。