ユンギの指が首の後ろに触れるだけで、なんでこんなに胸が苦しいんだろう。
足を撫でられたり、手を繋がれたりしたことだってあるのに。
見えない位置にいるから今どんな表情なのかもわからない。
いつもみたいに真顔でチェーンを握ってる?
それとも、思ったより華奢な金具に格闘して眉間にシワが寄ってるかな?
薄着なのに汗をかいてしまいそうなほど無言の時間に心を持っていかれる。
長く感じたその10秒ほどの時間が終わると、ユンギの気配が当たり前のように首の後ろから消えた。
振り返ってお礼を言うと、ユンギとばっちり目が合った。
寝起きのくしゃくしゃな前髪から覗く瞳が私の動きを封じ込める。
時間が止まればいいのにと思った。
この人の目に私しか映っていない今この瞬間が、永遠に続けばいいのに。
何も言えずにただ真っ直ぐと見つめていたのに、先に耐えられなくなったのはユンギの方だった。
透けた袖の端を親指と人差し指で少し挟みながら、顔色を変えずに褒めてくれる。
上から下まで一度見定めるユンギの視界に入ったのが、このドレスで良かった。
私にとっての[良い]選択が生きている。
軽く笑うその表情も今だけは独り占めできる。
甘すぎないデザインで、色はブラック。
私の知ってる全てを総動員して彼の好みに寄せた効果が、少しはあったかもしれない。
その言葉だけで幸せすぎて浮かれてしまいそう。
相変わらず至近距離にいる私たち。
できれば離れたくないけど、そろそろ行かなきゃいけないかな。
それに、このまま座っていたらもっと欲しがってしまう…
最後に少しだけ、攻めてみてもいいかな?
もう少しだけ貪欲に。
ダメ元で、というか期待はしていないけど。
可哀想な私の片想いがいつか実を結ぶように願って…
ユンギの表情が変わる。
反応が怖くて、自分から仕掛けたくせに返事を待てない。
止めておけばいいのに私は俯いたままそう続けて、胡座をかいてるユンギの足ばかり見ていた。
永遠に続けばいいと思っていた時間を自ら手放して、頑張って挑んでみる。
気付いてもらえなくてもいいの。
私が勝手に伝えたいことなの。
案の定返ってきた言葉はひどく短くて、声も低くて、やっぱり幻滅したかなと今更後悔した。
ユンギの中では、私は未だジホに片想いしてる。
好きな人の結婚式に褒められるためのドレスを着て行くなんて、なんて馬鹿な女だろうと思ったに違いない。
ましてや、それが、ユンギの好きな女性の相手だなんてね。
なのに恋愛の神さまは
突然変わったことをしてくれる
思いもよらない展開を、プレゼントしてくれる
俯いていたはずの私の頭が上がって、再び目の前の人の瞳を独り占めした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。