Kiss _ YoU
「また明日」という言葉を残して、ハンビンは去った。
彼が置いていったイチゴミルクが、静かな資料室で場違いな熱を帯びている。ハオはそれを、まるで未知の毒物でも見るかのような目で見つめていた。
「……勝手すぎ、」
低く呟いた声は、誰にも届かずに消える。
幼い頃から、美しさは凶器だった。寄ってくる人間は皆、ハオという人間そのものではなく、彼が纏う「記号」を愛でた。だからこそ、敬語という名の鎧を纏い、誰の熱も受け入れないと決めていた。
それなのに、あの一年生はどうだろうか。
名前を教えた覚えもない。理由もなく距離を詰め、ハオが密かに好む甘いものを「隙」だと笑う。その無遠慮な光が、ハオにはひどく恐ろしかった。
翌日、ハオはいつもより早く生徒会室を後にした。
捕まれば、またあの調子で懐に踏み込まれる。逃げ場を探して旧校舎の屋上へと続く階段を上り、重い鉄扉を押した時。
「あ、ハオ先輩。やっぱりここでしたか」
春の風に前髪を揺らし、フェンスに背を預けたハンビンが笑っていた。
「俺のこと、避けようとしましたよね? だから先回りしちゃいましたㅎㅎ」
ハオの徹底した拒絶さえ、彼にとっては愛おしい遊戯に過ぎない。
捕食者の余裕を湛えたその瞳に、ハオは初めて、逃げられない予感に身震いした。
ー 10,205文字
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