Don’t Look Away
毎日、仕事に追われている。
朝から晩まで働いて、帰る頃には日付が変わっていることも珍しくない。自分の人生なんて、仕事をして、眠って、また働く。その繰り返しだと思っていた。
そんなある冬の夜、いつものように仕事を終えて帰る途中、俺は公園のベンチでうずくまっている男を見つけた。
薄着のまま、雪の降る中で一人、泣いていた。
放っておけばいい。
そう思ったはずなのに、なぜか通り過ぎることができなかった。
「……大丈夫ですか?」
それが、俺たちの始まりだった。
彼が誰なのか、俺は知らなかった。
ただ、寒そうだったから自分のマフラーを貸した。
少し話をして、その夜は別れた。
もう二度と会うこともないと思っていた。
けれど数日後、俺の前に現れた彼は、俺が想像していたような普通の人ではなかった。
若くして巨大な会社を築き上げた、誰もが知る大企業の代表。
そんな人が、なぜ俺なんかに近づいてくるのか。
最初はただ、恩返しのつもりなのだと思っていた。
食事に誘われるようになって。
仕事の愚痴を聞いてもらうようになって。
疲れている俺を、何度も気にかけてくれるようになって。
気づけば、俺の生活の中には彼がいるのが当たり前になっていた。
「そんなに働かなくていいよ」
「君が欲しいものは、僕が全部用意する」
優しい言葉だった。
少なくとも、最初はそう思っていた。
けれど、彼の優しさが深くなるほど、俺の世界は少しずつ狭くなっていく。
仕事を辞めるように言われる。
友人との予定を心配される。
外へ出る理由を尋ねられる。
そしていつしか、彼は当たり前のように言うようになる。
「僕だけを見ていて」
あの雪の夜、俺が助けたはずの男。
その人が、いつの間にか俺の人生を誰よりも深く支配する存在になっていた。
ー 3,655文字
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