絵画の中で会えたなら
雨に煙る夕暮れの住宅街。
少女は胸の奥から湧き上がる衝動に駆られるように、ひたすら走っていた。
逃げているわけじゃない、けれど立ち止まってはいけない気がして。
曲がりくねった坂道の先、ふいに現れたのは古びた一軒の絵画屋――
《レーヴ・デ・クルール(色彩の夢)》と書かれた、あたたかく灯る木の看板。
雨宿りのように扉をくぐった少女は、そこに飾られた一枚の風景画に心を奪われる。
草原。風。遠くにたたずむ白い服の男性。
吸い寄せられるようにその絵に手を伸ばした瞬間、世界は歪み、絵の中の草の香りが鼻をかすめた。
そして少女は、出会ってしまう。
名前も、時代も、現実かどうかさえわからない――けれど確かにそこにいる“彼”と。
触れられない。でも、心だけは惹かれていく。
絵の中の人に恋をしてしまった少女の、色彩に満ちた、美しく儚い恋の物語。
ー 3,890文字
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update 2025/06/26