屋上の柵を飛び越えて、もう身を投げる寸前の瑞希の手を、柵越しに掴んだ。
まさにその通りだ。
中学だって、只々隣りに居てあげることしかできなかった。
それが瑞希のためになったと思う?
全部、僕の勘違いだったんだ。
じゃあ、今僕がすべきことは?
柵越しに瑞希を抱きしめると、大粒の雫が肩に伝ってきた。
何とか気持ちは伝わったようで、瑞希も嬉しそうな顔を浮かべていた。
これなら、きっと…
瑞希は小さく頷くと、後ろを向いた。
僕は柵を飛び越えると、瑞希の手を取った。
後ろから、ギシギシと音がする。
瑞希の想いが悪い方向へと進んだ今、セカイが壊れかけているのだろう。
でも、そんなこともどうでもいい。
今はこうして、瑞希と一緒になれるのだから。
『「さん!」』
真っ黒な溝へと落ちていく中、瑞希と笑いあった。
最後に聞こえたのは、そんな瑞希の言葉だった。
end.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!