あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あなた「………………うーん。」
谷地「どうしたの?難しい顔して……。」
澤村先輩にめっちり怒られて、部屋に戻ってから。
幸郎くんからLINEがきていて、その返信に頭を悩ませていた。
『綺麗に通った鼻筋も、』
『…………ふにふにの唇も、』
『可愛いよ。』
あなた「〜、、////なんでもない!ちょっと風当たってくるね!」
谷地「え、あなたちゃん、、!?」
あなた「先寝てて!!」
充電コードを急いで抜いてスマホを片手に部屋から飛び出した。
うぅ………………//
幸郎くんに言われた言葉とか、触られたところとか。
思い出しては胸が締め付けられて、苦しくなって、だけどそれがどこか心地よくて。
胸の高鳴りが抑えられない。
幸郎くんって……女の子慣れしてそうだよね。
あんな風に……誰か女の子に触れたり、甘い言葉投げかけたりしてきたのかな。
…………ズキンッ、
あなた「…………、?」
ロビーのソファーに腰掛けて、LINEのトークを開いたまま胸に手を当てる。
モヤモヤする。
幸郎くんが他の女の子と、今日私にしてたような事してたとしたら……。
あなた「……ぃゃ、いやいや…………、」
影山「何が「いや」なんだ?」
あなた「!!!!?カゲくん!?」
びっくりした……。
胸のモヤモヤの違和感に首を振っていると、いつの間にか真後ろに立っていたカゲくんに気が付かなかった。
肩をビクッと跳ねさせた私を見て小首を傾げたカゲくんは、訝しげな顔をしながらも私の隣に腰掛けた。
影山「寝ないのか?」
あなた「あぁ……うん、ちょっと。カゲくんは?」
影山「……フラついてたらお前が居たから。」
……答えになってない気もする。
もしかしたらカゲくんなりに、緊張してるのかもしれない。
明日は稲荷崎戦。
一筋縄ではいかないだろうし、なにより侑がいる。
ただ、私にとっては侑だけじゃなくて。
あなた「…………明日、頑張ろうね。」
影山「ああ。……………LINE、返さねぇの?」
あなた「あ、」
すっかり頭から消えていた。
幸郎くんに返さないと…………。
【こちらこそ!】
……、、
ううん。
【私も楽しかったです!】
ええ、なんか違うような、、
【明日も頑張りましょう!】
上から目線すぎるかな……?
影山「何さっきから打って消してやってんだ。」
あなた「なんて返信したらいいか迷っちゃって……。」
影山「なんでもいいだろそんなの。」
あなた「良くないよっ。なんて思われるか分かんないじゃん……。」
男の子はこういう返信とか、悩んだりしないんだろうけど。
あなた「悩むもんは悩むの……!」
影山「誰だよ相手。」
あなた「「誰」って_______、」
……なんて言うのが正解なんだろうか。
答える前に、カゲくんは体を傾けて私の手元のスマホを見やった。
慌ててスマホを離した時には、もう遅くて。
影山「…………"ちゅうかみしあわせろう"?」
あなた「昼神幸郎!!そのくらい読んでよも______ぅ、……」
あ、
思わず訂正した私の大きな声が、静かなロビーに響き渡る。
同時に、微かに目を見開いたカゲくん。
影山「ひるがみ……さちろう、?」
あなた「…………そ、そう、だよ。」
別に、カゲくんに嘘を吐く必要もないなって。
ただ何故だか、一瞬幸郎くんとのあれこれは知られるべきじゃないって、思っちゃって。
あなた「……えっと、ほら。星海さんと一緒にいた人いたでしょ?背の高い……あの人で、」
影山「………………………。」
あなた「えっと、初日にお金貸してくれてそれで……。」
影山「………………。」
あなた「か、カゲくん……?」
明らかに不機嫌になっていく表情に、自分の居た堪れなさが深まっていく。
カゲくんが私に好意を持ってくれてるのも、春高終わってからちゃんと話そうとしているのも、分かってるのに。
他の男の子を優先させて、カゲくんとの事を蔑ろにしているって、そう思わせてしまったんじゃないかって。
あなた「その、だからカゲくん……あの、」
影山「_________ぇよ、」
あなた「…………え、?」
やっと小さく、発した言葉に。
耳を傾けると、重心を預けていた側の腕をスッと引かれた。
バランスを崩してカゲくんの膝下に顔を埋めさせてしまい、慌てて起き上がる。
あなた「ごめ_______、」
影山「お前は」
あなた「…………、?」
影山「お前は…………、」
言いにくそうに、ぎゅっと口をつぐんでから。
そらした目をまたこちらに向けて、掴んだままの手をギュッと握りなおす。
影山「…………俺の事だけ考えてればいいのに。」
あなた「______________、」
カゲくんらしくもない、真っ直ぐな気持ち。
多分、それが恋心だって……気付いてしまったから、だから。
こんなにも心に響いて、こんなにも……。
影山「〜、…………他のやつ見てると、イライラする。」
あなた「………………、」
私の心にスゥッと通ってきたカゲくんのその言葉が。
あまりに真っ直ぐでしょうがなくて。
だからだろう。
だからだよ。
こんなにも_______。
あなた「…………っ、////////////////」
鼓動が速くなって、顔が熱くなっちゃうのは。
カゲくんが普段と違うから、だから……。
グイッと引かれた、その力に。
私は抗わずに、ただされるがまま。
カゲくんの腕の中にすっぽりと収まって、少し早い気もする鼓動に耳を傾けながら。
影山「…………ずっとここに居ればいいのに。」
思ったままの、思いついたままの言葉をそのまま言ってしまうものだから。
その不揃いの鼓動が、いつの間にかリンクして。
ドキドキと高鳴る胸の中でも、やっぱりカゲくんは私に取って落ち着く存在で。
私はいつの間にか、そのまま眠ってしまっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!