第601話

落ち着く腕の中
23,822
2021/08/04 13:48
あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°


昼神 幸郎
昼神 幸郎
今日はありがとね



あなた「………………うーん。」


谷地「どうしたの?難しい顔して……。」





澤村先輩にめっちり怒られて、部屋に戻ってから。


幸郎くんからLINEがきていて、その返信に頭を悩ませていた。







『綺麗に通った鼻筋も、』






『…………ふにふにの唇も、』






『可愛いよ。』








あなた「〜、、////なんでもない!ちょっと風当たってくるね!」


谷地「え、あなたちゃん、、!?」


あなた「先寝てて!!」







充電コードを急いで抜いてスマホを片手に部屋から飛び出した。






うぅ………………//



幸郎くんに言われた言葉とか、触られたところとか。




思い出しては胸が締め付けられて、苦しくなって、だけどそれがどこか心地よくて。



胸の高鳴りが抑えられない。





幸郎くんって……女の子慣れしてそうだよね。



あんな風に……誰か女の子に触れたり、甘い言葉投げかけたりしてきたのかな。







…………ズキンッ、




あなた「…………、?」







ロビーのソファーに腰掛けて、LINEのトークを開いたまま胸に手を当てる。



モヤモヤする。




幸郎くんが他の女の子と、今日私にしてたような事してたとしたら……。






あなた「……ぃゃ、いやいや…………、」



影山「何が「いや」なんだ?」



あなた「!!!!?カゲくん!?」





びっくりした……。


胸のモヤモヤの違和感に首を振っていると、いつの間にか真後ろに立っていたカゲくんに気が付かなかった。



肩をビクッと跳ねさせた私を見て小首を傾げたカゲくんは、訝しげな顔をしながらも私の隣に腰掛けた。





影山「寝ないのか?」


あなた「あぁ……うん、ちょっと。カゲくんは?」


影山「……フラついてたらお前が居たから。」





……答えになってない気もする。


もしかしたらカゲくんなりに、緊張してるのかもしれない。




明日は稲荷崎戦。


一筋縄ではいかないだろうし、なにより侑がいる。





ただ、私にとっては侑だけじゃなくて。






あなた「…………明日、頑張ろうね。」


影山「ああ。……………LINE、返さねぇの?」


あなた「あ、」







すっかり頭から消えていた。


幸郎くんに返さないと…………。









昼神 幸郎
昼神 幸郎
今日はありがとね





【こちらこそ!】




……、、




ううん。




【私も楽しかったです!】




ええ、なんか違うような、、




【明日も頑張りましょう!】




上から目線すぎるかな……?






影山「何さっきから打って消してやってんだ。」


あなた「なんて返信したらいいか迷っちゃって……。」


影山「なんでもいいだろそんなの。」


あなた「良くないよっ。なんて思われるか分かんないじゃん……。」





男の子はこういう返信とか、悩んだりしないんだろうけど。





あなた「悩むもんは悩むの……!」


影山「誰だよ相手。」


あなた「「誰」って_______、」






……なんて言うのが正解なんだろうか。



答える前に、カゲくんは体を傾けて私の手元のスマホを見やった。



慌ててスマホを離した時には、もう遅くて。






影山「…………"ちゅうかみしあわせろう"?」


あなた「昼神幸郎!!そのくらい読んでよも______ぅ、……」






あ、


思わず訂正した私の大きな声が、静かなロビーに響き渡る。


同時に、微かに目を見開いたカゲくん。






影山「ひるがみ……さちろう、?」


あなた「…………そ、そう、だよ。」





別に、カゲくんに嘘を吐く必要もないなって。


ただ何故だか、一瞬幸郎くんとのあれこれは知られるべきじゃないって、思っちゃって。





あなた「……えっと、ほら。星海さんと一緒にいた人いたでしょ?背の高い……あの人で、」


影山「………………………。」


あなた「えっと、初日にお金貸してくれてそれで……。」


影山「………………。」


あなた「か、カゲくん……?」





明らかに不機嫌になっていく表情に、自分の居た堪れなさが深まっていく。


カゲくんが私に好意を持ってくれてるのも、春高終わってからちゃんと話そうとしているのも、分かってるのに。




他の男の子を優先させて、カゲくんとの事を蔑ろにしているって、そう思わせてしまったんじゃないかって。





あなた「その、だからカゲくん……あの、」


影山「_________ぇよ、」


あなた「…………え、?」





やっと小さく、発した言葉に。


耳を傾けると、重心を預けていた側の腕をスッと引かれた。




バランスを崩してカゲくんの膝下に顔を埋めさせてしまい、慌てて起き上がる。






あなた「ごめ_______、」


影山「お前は」


あなた「…………、?」


影山「お前は…………、」






言いにくそうに、ぎゅっと口をつぐんでから。



そらした目をまたこちらに向けて、掴んだままの手をギュッと握りなおす。









影山「…………俺の事だけ考えてればいいのに。」


あなた「______________、」









カゲくんらしくもない、真っ直ぐな気持ち。



多分、それが恋心だって……気付いてしまったから、だから。



こんなにも心に響いて、こんなにも……。








影山「〜、…………他のやつ見てると、イライラする。」


あなた「………………、」










私の心にスゥッと通ってきたカゲくんのその言葉が。




あまりに真っ直ぐでしょうがなくて。









だからだろう。







だからだよ。









こんなにも_______。





































あなた「…………っ、////////////////」








鼓動が速くなって、顔が熱くなっちゃうのは。






カゲくんが普段と違うから、だから……。










グイッと引かれた、その力に。






私は抗わずに、ただされるがまま。








カゲくんの腕の中にすっぽりと収まって、少し早い気もする鼓動に耳を傾けながら。












影山「…………ずっとここに居ればいいのに。」










思ったままの、思いついたままの言葉をそのまま言ってしまうものだから。






その不揃いの鼓動が、いつの間にかリンクして。





ドキドキと高鳴る胸の中でも、やっぱりカゲくんは私に取って落ち着く存在で。










私はいつの間にか、そのまま眠ってしまっていた。

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