第2話

拝啓、あなたへ💛💜②
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2024/09/09 13:00 更新
深澤side


ある日、俺は悪魔に体を支配された。


”深澤辰哉“という仮面を被った、悪魔に。


最初はただ、忘れっぽくなっただけだった。
人間だし、そんなこともあるだろう、くらいに。


だけど、気づけば悪魔になっていた。


約束も、思い出も、全て俺から抜けていって。
言いたいことも、言えなくなった。


言いたくないことばっかり、嘘ばっかりになっていった。


そんなとき、医者から言われた言葉は“若年性認知症“だった。

深澤辰哉
認知症、?俺が、ですか…

もちろん、そんなこと信じられなかった。
いや、信じたくなかった。



医者の言葉が脳内で響いて離れなかった。



それからの毎日は苦しかった。



ただただ怖かった。
一日一日、わからなくなっていくのが。


あの日はどこにいって、どんな話をしたか。

最初のデートの場所はあそこで、告白の言葉はこれ。

付き合った記念日は、照の誕生日は。


全部全部、薄れていく。
俺の記憶からなくなっていく。


ただただ辛かった。
一日一日、嘘つきになっていくのも。


照なんて嫌い。

好きで付き合ってる訳じゃないから。

携帯のアラームがならなくて。

道案内してて。

来週だとおもってて。


全部全部黒く染まっていく。
どんどん、俺じゃなくなっていく。


深澤辰哉
俺、どうしたらいいの…
岩本照
ふっか!ごめん、待った?
深澤辰哉
ぁ、いや……ううん、全然!


だから、取り繕った。


なんとかして、”笑顔の深澤辰哉“を。







だけど、無理だった。
俺はもう、悪魔になっていた。





だから俺は、照を捨てた。
大切な人を困らせないために。


それでも、家においてある照との思い出は俺を苦しめた。

なぜここにあるのかわからない小さなはにわ。
いつからあるのかわからないふたりで撮った
写真。
どこかのカフェのポイントカード、割引券。


俺のものなのに、わからない。
思い出せない。
しらない。

早く忘れてしまいたいのに、忘れるのが怖くなって。

ときにはこれも照との思い出なのかな、って嬉しくなるときもあった。


だけど、そう思えばそう思うほど思い出せなくて。
思い出せないほど、やるせなくて。
自分を責めて、泣いて。


なにが正解だったのか、なにが正解なのかを見出だせないまま、時は過ぎていく。

照が俺の部屋に残ったまんま。


なんとなく、どこかのカフェの割引券を手の中で閉じ込めた。


照との思い出を、閉じ込めるかのように。



拝啓、貴方へ

貴方はもう、忘れたのでしょうか。




岩本side


懐かしい香りがした。


甘いバニラのような、
優しい匂い。


いきつけの喫茶店にいくと、本能的にそう思った。


…きっと、ふっかの匂いを認識したのだろう。
反射的に。


正確に言えば、ふっかがいつもつけてた香水の匂い、ってこと。


ふと、隣にふっかがいたときのことを思い出した。

あの頃の記憶はやわらかくて、あたたかい思い出しか残っていない。


…”あの頃に戻れたなら“


何度、そう思ったのだろう。


また会えたら、俺はなにを話すんだろう。


なにを伝えるんだろう。


岩本照
いつもので。
店員
了解。
店員
あ、そういえばさっき深澤くんが来てたよ。
岩本照
え、?
店員
久しぶりだったから驚いて。最近、ふたりで来てなかったから。

半年前に別れてからはこの店でふっかに会ったことは一度もなかった。

なのに、なんで…

店員
でも、なんか“別人”って感じだったなぁ…この店のこと、知らないって言ってたし。
岩本照
…知らない?
店員
家に割引券があったから来た、って。一回もいったことないはずなのに手元にあるのは不思議です、とも言ってたなぁ。
岩本照
…ごめんなさい、俺帰ります。

店にきたときに感じた匂いは本当にふっかのだったんだ。



ふっか、なにがあったのか教えて。
今更だけど、全部受け止めるから。


気づいたときには店を飛び出していた。



拝啓、貴女へ

貴女は覚えているのでしょうか?




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