眩しい光にあてられ、意識がはっきりとしてくる。
眠っていたようだ。
ゆっくりと冴えてくる目で、辺りをぼうっと見回す。
見慣れないソファ、ドア、そして今体重をかけている机。
そういえば、俺はお兄さんの家にいるんだっけ。
その事実が脳内を駆け巡った瞬間、
体がばっと動く。
ガタっと音を立てて立ったその時、
背後でバサっと何かが落ちる音がした。
見ると、お兄さんのものらしきパーカーが落ちていた。
昨夜、俺の肩にかけてくれたのだろう。
そっと拾い上げ、試しに腕を通す。
思ったよりも大きかったサイズに笑いながら、
それを着たままお兄さんの姿を探す。
リビングやダイニングにその姿は見当たらない。
お兄さんの部屋だろうかと思った後、
そういえばお兄さんの部屋を知らないことを思い出した。
昨日は、家に来て足を洗ってコーヒーを飲んで、
お風呂に入ったお兄さんと一度も顔を合わせることなく寝てしまった。
どうしたものかと悩んで一人唸っていると、
( ガチャ
不意にリビングのドアが開いた。
慣れない朝の挨拶に戸惑いながら、
お兄さんの元へ駆け寄る。
俺の渾身の上目遣いは効かなかったらしい。
けらけらと笑うお兄さんに少しむっとする。
お兄さんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でて、
お湯を沸かし始める。
電気ケトルのぽこぽこという音が響いている。
お湯を沸かす様子を横でじっと見ていた俺を見兼ねてか、
お兄さんがダイニングを指差しながら言った。
俺も素直に従い、ダイニングテーブルに腰掛けながらお兄さんを見る。
冷蔵庫を開けたり閉めたりしている。
しばらく冷蔵庫をぱかぱかさせていたお兄さんが、
覚悟を決めたように此方を振り返る。
その顔が余りに真剣だったため、思わず笑ってしまう。
棚から食パンを一枚取り出し、
トースターに置くお兄さん。
何てことなく出た俺の言葉に、
お兄さんは反論しかけ、途中で口を噤んだ。
お兄さんの問いかけにびくっとする。
寝る場所すら与えられていない俺が、
朝の食料を与えられているはずがない。
嫌な空気になるのを避けたかったため、
咄嗟に嘘をついた。
お兄さんは、咎めることもなく、そんな俺を眺める。
しばらく俺に視線をやった後、
ま、いいかと言って作業に戻った。
数分が経ち、キッチンにいい香りが立ち込める。
渡された2つのマグカップ。
1つはブラックコーヒーで、
もう1つはミルクや砂糖が入った甘いコーヒー。
お兄さんと、俺のだ。
マグカップの中で軽く波打つそのミルクティー色に、
少し心を弾ませる。
白いお皿に載せられたパンを受け取り、
言われた通り、先に席につく。
お兄さんの方を盗み見れば、余ったコーヒーを冷ましていた。
食パンを齧り、甘いコーヒーを啜る。
所謂、一般的な朝食。
もぐもぐと咀嚼しながら、
今頃お母さんはどうしてるだろうと考える。
俺がいなくなって、焦っているだろうか。
いや、それはないな。
寧ろ喜んでそうだ。
瞬時に否定できてしまうのが空しくなってきて、
俺は直ぐに考えるのをやめた。
いきなり目の前から声を掛けられ、
驚きのあまり咳き込んでしまう。
思わず睨みつけると、お兄さんは笑った。
窓から差し込む光が、お兄さんの髪の毛を照らしている。
俺のマグの中にあるミルクティー色のコーヒーと、
お兄さんの髪の毛の色が少し似ている。
俺はマグを両手で抱え直して、
その縁に、優しくそっと口付けた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。