私、あなたの苗字 あなたの下の名前。
東京大学 医学部を卒業した、現在26歳の女です。
岡山から上京して早7年。
都会には慣れた筈なのに、
朝の弱さだけは一生変わらないまま。
エレベーターを待つ余裕なんてないから、
階段を全力で駆け上がる。
そう顔を上げたと同時に、何もないところで躓く。
息を切らしながら駅の改札で交通系カードをタッチすると、ブブーッと機械音が駅に鳴り響いた。
急いでるはずなのに、その事実だけは妙にすんなり受け入れられた。
むしろ、悟った。
私は後ろのサラリーマンに軽く会釈し、
妙に落ち着いてチャージ機へ向かう。
そう呟いた瞬間、
視界の端に、見覚えのある金髪がひょいっと入ってきた。
あなたの苗字の脳内に、稲妻が走る。
振り向いた乾が、露骨に眉を顰めた。
乾は苦笑しつつ、ちらっとスマホを確認する。
——-そうして、あなたの下の名前と乾は無事
ギリギリ会社に滑り込みセーフ。
タイムカードを押しながら、思い切り息をつく。
デスクに向かう途中、ちょうどコーヒー片手の須貝さんと目が合った。
そう答えた瞬間、須貝さんはニヤッと笑う。
私は親指をぐっと立てて、
須貝さんの目の前で満面の笑みを放つ。
朝から遅刻して、まあ色々とあったけど、
なんだかんだ会社には時間通り着いたし
今日も私の人生ギリギリ踏ん張れてるっぽいな〜
タクシー代は三日後くらいに払いました。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!