「__いいか? 260年続いた江戸幕府の歴代将軍は、家康、秀忠、家光____……」
先生の言葉が、まるで呪文のように聞こえてくる。
前の世界で死んで、この世界の小学校に通っている。という設定の私・赤羽あなたの下の名前はあくびを噛み殺しながら、黒板をぼんやりと眺めていた。
歴史は得意だ。けれど、小学校でやったことをまたやることになるなんて。そんなこと、口が裂けても言えない。
そんなことを考える。
だめだ。このままだと本当に眠ってしまいそうだ。
眠気を振り払うように、教科書のページをめくった瞬間______。
チャイムがなった。
「じゃあ、今日はここまで! 帰っていいぞ!」
先生の呪文詠唱が終わったら、クラスメイト達はランドセルを背負い、それぞれ教室を出る。
それが視界に入った私も、ランドセルを背負って廊下に出る。
正直、まだわからないことが多すぎる世界で、生きるはまだ難しいと思う。
「先は長いな」という言葉を飲み込んだため息をつき、私は階段を下って、一階の廊下に出ようとしたその時のこと。
不意に何かが胸に飛び込んできた。
咄嗟に手でそれを受け止める。
「大丈夫?」って言おうとした私の口は、そこで止まってしまった。
それもそのはず。
青いジャケットに赤い蝶ネクタイ。グレーのズボンにメガネをかけているその少年に、私はいやほど見覚えがあるからだ。
なんとか会話はできたけど、ここからが重要。
この人物は、私がついさっき見たあの漫画の主人公だから。
そんな声を出すと、目の前の少年はびくりと肩を揺らした。
それでも、私の思考は止まらなかった。
全力で心の中のトークしていたら、少年が心配したような声で言ってきた。
やばい。完全に怪しい人って思われてるよ……。
不甲斐ない……。穴があったら入りたい……。
沈黙の15分が続いた(((
私は再度、思い切り壁を力任せにブッ叩こうかと思ったけど、その思考に至る前に、少年が声をかけた。
ふとそんなことを聞いてみた。
あまりの急な質問に、耳を疑う。
危ない。あと少しで高校2年生と言ってしまうところだった。
いえない。
目の前にいるこの可愛らしい少年が、一瞬すごく冷たい目で見てきたことを。
言っちゃえば、怪しむ目で。
目が合った瞬間、私の背筋が凍りつきそうなくらい血の気が引いた気がした。
この空気をなんとかして破りたくて、私は思い切って聞いてみた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。