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第1話

Prologue
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2022/09/18 09:58 更新
おれ、本当は魚だったと思うんだよね



「はあ?」

海に足を脛あたりまでつけながらそういうそいつに、ぼくは思わず素っ頓狂な声を出した。
「なんでまたそんな」
けれどすぐに足元にある小さな貝殻を拾い始めて、ぼくは顔を向けることもなく、聞き流すように言った。

ちゃぷ

水が跳ねる音が耳元で響いて、そのすぐ後には、くく、と笑う声が聞こえた。
「だって、海に来るといつも、ここが家みたいな気がするから。」
「みんなが冷たいって言う海の水が、ぼくにとっては空気みたいにちょうどよくて。みんなはベトベトするから嫌っていう海風は、ぼくの体に染みていくみたいで心地いい。走るよりも泳ぐ方が好きで、身の水に足をつけるとなんだか息がしやすい。」

「ここがおれの還る場所なんじゃないかって、思うんだよ。」

「……」
その言葉に、ぼくはろくに言葉を返すことができなかった。なんて言っていいのかわからなかった。そうかもしれないと言うのも、そうじゃないと言うのも、どちらも心が咎めて、音にならずに空気になって口から漏れていく。そうかもって言えば楽だったのかもしれないけど、でもなんとなくそれが嫌だった。そんなことを言ってしまった時には、彼が本当に海に浸かったまま戻ってこれなくなるような、そんな理由のない不安がぼくを襲った。

「でも今のおれは人間だから。昔か大昔のどっちかだと思うんだけど。あ、それじゃ結局同じか。」

ぼくもわかんなくなってきたや。
今度は何やら吹っ切れたような声で言って、彼はまた海の水を足で弾いた。でもぼくは相変わらず何も言えないでいる。するとそれに気づいた彼はまたすぐに足の動きを止めて、いつの間にか彼を見ていたぼくを見つめ返した。

「…でも、」
「もしかしたらいつか、おれが海に還る日が来るのかもしれない。いつかはわからないけど。でもいつかきっと、やってくるんだと思う」

視線が合う。外してはいけない気がして、瞬きさえもできなかった。海風が肌を撫でて、少しだけヒリヒリする。彼は少し、間を開けた。けれどその時も、ぼくをずっと見つめていた。

「だからね。」

優しい声音だった。

「もし、その日が来たときは」





「ロンジュナ、お前が______」





あの時彼は、なんと言ったんだろうか。
いつも、思い出せないままでいる。














Retourner à la mer
ー海に、還るー






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