スタジオに響く音は、いつもより少しだけ大きく感じた。
それは機材のせいでも、部屋の広さでもない。
ただ単純に__調子が良かった。
れるはマイクの前で、軽く息を整える。
喉の通りがいい。音が自然に乗る。
歌うたびにわ自分の声がちゃんと"そこにある"と実感できた。
少し照れながら、れるは小さく笑う
褒められるたびに、少しだけくすぐったくなる。
でも嫌じゃない。この空気が好きだった。
"ここにいれば大丈夫"
そう思える場所があることが、何よりも支えになっていた。
録音が再開される
音楽が流れ、リズムが刻まれ、
その上に自分の声を重ねていく。
迷いはない。
言葉も、音も、ちゃんと前に出る。
__そのはずだった。
ふとした瞬間、ほんの一瞬だけ。
音が"引っかかった"気がした。
違和感は一瞬で消えた。
もう一度歌えば、さっきと同じように声は出る。
だから、気のせいだと思った。
マイクから離れ、深く息を吐く。
さっきの感覚を思い出そうとしても、うまく掴めない。
ただ一瞬、"音が途切れた"ような__そんな曖昧な感覚だけが残っていた。
優しい言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
この場所があるから、歌えている
この人たちがいるから、声が出る
__そう、思っていた。
軽く喉を鳴らす。
ちゃんと出る。問題ない。
さっきの違和感なんて、もう残っていない。
そう信じて、マイクの前に立つ。
音楽が流れる。
そして__
一瞬だけ、声が遅れた。
ほんのわずかなズレ。
誰も気づかないくらい、小さな違和感。
それでもれるには、はっきりと分かってしまった。
さっきと同じだ。
__何かが、少しずつおかしくなっている。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。