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第95話

俺がいるから大丈夫。
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2025/07/20 23:02 更新
事故は突然だった。
現場ロケの帰り道、車がスリップしてガードレールにぶつかった。運転手も他のメンバーも軽症で済んだが、涼太は両脚を骨折し、しばらく車椅子生活を余儀なくされた。

「歩けるようになるには、時間かかるってさ」

事務所の医務室でそう言った翔太に、涼太は何も返さなかった。

痛みもあるし、悔しさもある。でも何より、自分だけが動けないことが情けなかった。

「俺、ほんとに戻れるのかな」

ぼそっとこぼした言葉に、翔太は息をついた。

「戻れるに決まってんだろ。俺が毎日付き合うから、一緒に頑張ろう」

そう言った翔太の手は、涼太の手を強く握っていた。



それからの日々、翔太は毎日スタジオ帰りに涼太のマンションへ来た。

リハビリの付き添いも、風呂の介助も、食事の準備も、全部やってくれる。最初は遠慮していた涼太も、だんだんと翔太にだけは素を見せるようになった。

「しょーた、今日も泊まってく?」

「泊まるっつってんだろ、何回聞くのそれ」

「んふふ、そっか。じゃあ、髪乾かして」

「おい、甘えん坊すぎじゃね?」

「だって……翔太じゃなきゃ嫌なんだもん」

「……はいはい、わかったわかった」

言葉ではぶっきらぼうだが、翔太の手は優しい。ドライヤーを持ちながら、前髪をそっと持ち上げて乾かしてくれる。涼太は気持ちよさそうに目を閉じる。

「……ねぇ、翔太。好きって言って」

「いきなりなんだよ」

「言ってくれないと寝れない」

「ガキじゃん……。……ちゃんと好きだよ。」

そう言いながら、翔太はふっと笑って頬を撫でた。



リハビリも、最初は思うように動かせなくて何度も泣きそうになった。

「もー無理。痛いし、やだ…っ」

「サボんな。ちょっとずつでいいから。俺、ちゃんと見てるから」

翔太の声があるから、続けられた。泣きながら腕を引っ張っても、怒られない。

転んで悔し泣きしても、「大丈夫、俺がいるから」って、優しい顔で頭を撫でてくれる。



ある日の夜。

「今日は何して欲しいんだよ、涼太さん」

翔太がからかうように言うと、涼太はもじもじしながら口を開く。

「ギュッてしてほしい」

「甘えすぎ。……でも、まあいっか」

膝の上に抱き上げると、涼太は満足そうに肩に顔を埋めた。

「しょーたの腕の中、落ち着く…」

「寝るなよ。俺、結構疲れてんだけど?」

「んー……すぐ寝ちゃうかも」

「……ったく、ほんと甘えん坊になったな」

でも、嫌じゃない。むしろ、誰にも見せないこの涼太を見られるのは、自分だけの特権だと、翔太は思っていた。



そして──

数か月後、涼太は自分の足でスタジオに戻ってきた。少しだけ歩き方はぎこちないけれど、彼の顔にはもう、強い光が戻っていた。

「見た? 俺の歩き。なかなか良かったでしょ」

「うん、まあまあかな」

「は? もっと感動してよ、翔太」

「……俺、泣きそうだったんだけど」

「ふふっ、ありがと」

─────────────────────────


数日後。とあるドキュメンタリーの密着で、涼太の復帰が取り上げられると——
SNSには「翔太の支えがほんとに大きかったと思う」
「ゆり組って信頼の塊…」「尊すぎる」と感動の声があふれた。

涼太は笑いながら言う。
「俺、しょーたがいなかったら、折れてたかも」

翔太はおでこをくっつけるようにして言った。

「俺が、ずっとそばにいるって言ったろ。
 今までも、これからも、ずっと甘えていいんだから」



そんな2人の手は、これからもずっと離れない。

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