事故は突然だった。
現場ロケの帰り道、車がスリップしてガードレールにぶつかった。運転手も他のメンバーも軽症で済んだが、涼太は両脚を骨折し、しばらく車椅子生活を余儀なくされた。
「歩けるようになるには、時間かかるってさ」
事務所の医務室でそう言った翔太に、涼太は何も返さなかった。
痛みもあるし、悔しさもある。でも何より、自分だけが動けないことが情けなかった。
「俺、ほんとに戻れるのかな」
ぼそっとこぼした言葉に、翔太は息をついた。
「戻れるに決まってんだろ。俺が毎日付き合うから、一緒に頑張ろう」
そう言った翔太の手は、涼太の手を強く握っていた。
⸻
それからの日々、翔太は毎日スタジオ帰りに涼太のマンションへ来た。
リハビリの付き添いも、風呂の介助も、食事の準備も、全部やってくれる。最初は遠慮していた涼太も、だんだんと翔太にだけは素を見せるようになった。
「しょーた、今日も泊まってく?」
「泊まるっつってんだろ、何回聞くのそれ」
「んふふ、そっか。じゃあ、髪乾かして」
「おい、甘えん坊すぎじゃね?」
「だって……翔太じゃなきゃ嫌なんだもん」
「……はいはい、わかったわかった」
言葉ではぶっきらぼうだが、翔太の手は優しい。ドライヤーを持ちながら、前髪をそっと持ち上げて乾かしてくれる。涼太は気持ちよさそうに目を閉じる。
「……ねぇ、翔太。好きって言って」
「いきなりなんだよ」
「言ってくれないと寝れない」
「ガキじゃん……。……ちゃんと好きだよ。」
そう言いながら、翔太はふっと笑って頬を撫でた。
⸻
リハビリも、最初は思うように動かせなくて何度も泣きそうになった。
「もー無理。痛いし、やだ…っ」
「サボんな。ちょっとずつでいいから。俺、ちゃんと見てるから」
翔太の声があるから、続けられた。泣きながら腕を引っ張っても、怒られない。
転んで悔し泣きしても、「大丈夫、俺がいるから」って、優しい顔で頭を撫でてくれる。
⸻
ある日の夜。
「今日は何して欲しいんだよ、涼太さん」
翔太がからかうように言うと、涼太はもじもじしながら口を開く。
「ギュッてしてほしい」
「甘えすぎ。……でも、まあいっか」
膝の上に抱き上げると、涼太は満足そうに肩に顔を埋めた。
「しょーたの腕の中、落ち着く…」
「寝るなよ。俺、結構疲れてんだけど?」
「んー……すぐ寝ちゃうかも」
「……ったく、ほんと甘えん坊になったな」
でも、嫌じゃない。むしろ、誰にも見せないこの涼太を見られるのは、自分だけの特権だと、翔太は思っていた。
⸻
そして──
数か月後、涼太は自分の足でスタジオに戻ってきた。少しだけ歩き方はぎこちないけれど、彼の顔にはもう、強い光が戻っていた。
「見た? 俺の歩き。なかなか良かったでしょ」
「うん、まあまあかな」
「は? もっと感動してよ、翔太」
「……俺、泣きそうだったんだけど」
「ふふっ、ありがと」
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数日後。とあるドキュメンタリーの密着で、涼太の復帰が取り上げられると——
SNSには「翔太の支えがほんとに大きかったと思う」
「ゆり組って信頼の塊…」「尊すぎる」と感動の声があふれた。
涼太は笑いながら言う。
「俺、しょーたがいなかったら、折れてたかも」
翔太はおでこをくっつけるようにして言った。
「俺が、ずっとそばにいるって言ったろ。
今までも、これからも、ずっと甘えていいんだから」
—
そんな2人の手は、これからもずっと離れない。








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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!