パラッ
パラッ パラ
本のページを捲りながら、
あなたは独りぶつぶつと呟いている。
呼ばれて、はっと顔を上げる。
だがそこには誰も居なかった。
確かにいま、自分の耳に届いた、
自分の名を呼ぶ声が。
同じ声。
だけど どこか懐かしい。
パタン
あなたは手元に視線を落とす。
散らばった書籍の山に、また一冊の本を重ねる。
あなたは本棚の前に立ち、
再び探し物を始める。
明確には決まっていない。
だが、これから起こるであろう、
未曾有の惨劇を止めるために。
甚爾はあれから、何も語らなかった。
しかし、だからこそ、
それで察するには十分だった。
恐らくーーー近いうちに、
呪術界と彼との間で大きな接触が控えているのだと。
思い出すように、唇に触れる。
一生、俺に惚れてろ。
笑っていた。
悟ったような
諦めたような
憑き物がとれたような、
そんな顔で。
まるで会えるのが最後な気がした。
名残惜しむように、離れた唇。
呆けたままの俺。
甚爾が立ち去っていくのをただ見ているだけで、
動けなかった。
嫌な想像ばかりが頭を過ぎる。
焦りで、うまく思考が行き届いていない自覚がある。
本の背表紙に手を触れたまま、あなたは項垂れる。
俺はこの2ヶ月、何をしていたんだ。
考えるという形ばかりの言葉遊び。
甚爾に鍛えてもらわなければ、何一つ成長しなかっただろう。
ギィ
図書室の扉から五条が顔を覗かせる。
項垂れて本棚にもたれているあなたの背中にずかずか近づくと、腕を回して抱き着く。
あなたの肩にあごを載せて、甘えるように頬を擦り寄せる。
あなたはこの距離を自分に許してくれる。
それが嬉しくて、仲直り(五条が勝手に拗ねていただけだが)したあの夜中以来、何度となく五条はあなたに貼り付いていた。
いつか、あなたが自分を意識するようになる、その日まで。
しかし、
ただ疲れているという様子ではないあなたの気配を察知して、五条はすぐに眉を顰めた。
察した五条に気付いたあなたがはたと我に返る。
弁明しようとしたが、それを遮るように正面に身体を向かされて、目の前に蒼い瞳が降りてきた。
見透かすようにじっと目を合わせてくる。
あなたは横に目を逸らした。
そのまま認めたって良かったのだとは思う。
だけど、それがわかったところで、五条が憤慨するだけ。
縛りの制約上、五条が甚爾と自分の間に入ることは出来ない。
無意味に五条の精神衛生を乱すことはしたくない。
我ながらあまりに下手な誤魔化し方だと思う。
だけど、目の前の六眼を封じるように思い切り抱き返せば、五条は不満げにしながらも押し黙った。
直球で聞いてくる五条の言葉に、あなたは身を屈める。
五条の眼は、あなたの散らかした本の山に向けられていた。
そう。
明確には決まっていない...
と、云いつつ。
積み上げられた本たちには大まかな共通点があった。
突っ込みながら五条がぎゅうう、とあなたに抱き着く。
五条が大きく目を見開く。
少し頬を赤くしたあなたが、五条を見上げている。
ーーー伏黒甚爾を止める。
言うは易いが、とんでもなく高い壁だ。
もし呪術界に彼のつけた傷が走っていき、
高専にいる七海や五条たちに届くようなことがあれば。
甚爾も無傷では済まないだろう。
俺ごと東京から離れさせるくらいだ。
...知っておきながら、
双方が苦しむような結果になったら。
自分の呪力は、回復と浄化向きの、正の呪力。
何とかして「離れていても」みんなを守れるように出来ないか。
"人形"のように、身代わりとなるようなものをつくれないか。
その結果が、遠隔の傀儡操術や、夜蛾に教鞭を求めた呪骸だったのだ。
五条が無言で唐突に頭を撫で回してきて、あなたが叫ぶ。
さんざ掻き回した後、
ようやく落ち着いてきた五条はあなたの頭頂部に口付ける。
好き。
何いまの表情。
俺(達)を守りたいから?
アイツーーーあなたに縛りをさせやがった術師のことは相変わらず殺したい程気に食わないが、今のあなたの言葉は本音だった。
五条はあなたの言葉をすんなりと受け入れた。
不思議な感覚だった。
守るべき対象だから、というのは
あなたがここにやって来てから何度か聞いた。
変わってるなと思った。
弱いくせに大人ぶってんじゃねーよとも思った。
だけど、今はただ嬉しくて、照れくさい。
五条の腕の中で愚痴っていたあなたが、
はっと何かに気付いて言葉を止める。
俺の欠片があれば、
俺が分身できたなら。
そんなことを思うあなたに、一つの考えが浮かんだ。
ずっと悩んでいた。
俺の、今の身体は何なのか。
夏油傑の魂は若き肉体に遡っている。
同時に、幼い俺は上書きされることなく過ごしている。
同じ時空に、二つの身体は高確率で存在し得ない。
じゃあ。
そこにもし、「あぶれた」魂が存在していたら。
"魂"を核にした、それはまるでーーーー。
俺だって、過ごして気付かなかったんだから。
あなたは動揺して、地面を見下ろす。
震えないように、体を律した。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。