第57話

交錯する思惑の裏側で
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2024/12/17 11:08 更新
あなた
...憑代、....違うな
パラッ
あなた
くそ、
パラッ パラ
あなた
あたま、まわせ
あなた
どうしたらいいか考えろ

本のページを捲りながら、
あなたは独りぶつぶつと呟いている。
??
ーーーあなたさん
あなた
呼ばれて、はっと顔を上げる。
あなた
七海くん...?
だがそこには誰も居なかった。
あなた
...
あなた
ちがう
あなた
けんと、さん
確かにいま、自分の耳に届いた、
自分の名を呼ぶ声が。

同じ声。
だけど どこか懐かしい。
あなた
(戻らなきゃいけない)
あなた
(この世界から)

パタン
あなた
(だけど)
あなたは手元に視線を落とす。

散らばった書籍の山に、また一冊の本を重ねる。
あなた
甚爾あいつを何とかして、止めないと
あなたは本棚の前に立ち、
再び探し物を始める。

明確には決まっていない。
だが、これから起こるであろう、
未曾有の惨劇を止めるために。



甚爾はあれから、何も語らなかった。

しかし、だからこそ、
それで察するには十分だった。




恐らくーーー近いうちに、
呪術界と彼との間で大きな接触が控えているのだと。



あなた
....
思い出すように、唇に触れる。


伏黒甚爾
『ーーーお前がかわいくて仕方ねえ』
伏黒甚爾
『命令だ。俺の言うことを聞け』

一生、俺に惚れてろ。
あなた
(甚爾)
あなた
(俺にどうしてほしかったんだ)

笑っていた。


悟ったような
諦めたような
憑き物がとれたような、
そんな顔で。
あなた
(俺も好きだと言えば、話してくれたのか)
あなた
(いや。あいつはそんなじゃない)
まるで会えるのが最後な気がした。

名残惜しむように、離れた唇。
呆けたままの俺。

甚爾が立ち去っていくのをただ見ているだけで、
動けなかった。
あなた
(電話も繋がらなくなった)
あなた
(本格的に動き始めたのか。わからない)
あなた
(こうしてる間にも...)

嫌な想像ばかりが頭を過ぎる。
焦りで、うまく思考が行き届いていない自覚がある。
あなた
俺が、俺だけが
あなた
俺...俺がいる、意味.....

本の背表紙に手を触れたまま、あなたは項垂れる。

俺はこの2ヶ月、何をしていたんだ。

考えるという形ばかりの言葉遊び。
甚爾に鍛えてもらわなければ、何一つ成長しなかっただろう。






ギィ
五条悟
ああ、いた
五条悟
あなた。こんなとこに居たわけ?

図書室の扉から五条が顔を覗かせる。

項垂れて本棚にもたれているあなたの背中にずかずか近づくと、腕を回して抱き着く。
あなた
...悟
五条悟
勉強は大事って言いたいとこだけどさあ、
そんなに疲れるまでやるなよな
五条悟
大丈夫だ
五条悟
全部、俺が教えてやるから

あなたの肩にあごを載せて、甘えるように頬を擦り寄せる。

あなたはこの距離を自分に許してくれる。
それが嬉しくて、仲直り(五条が勝手に拗ねていただけだが)したあの夜中以来、何度となく五条はあなたに貼り付いていた。

いつか、あなたが自分を意識するようになる、その日まで。




しかし、
ただ疲れているという様子ではないあなたの気配を察知して、五条はすぐに眉を顰めた。
五条悟
...。は
五条悟
おい、まさか
あなた
! さと、
五条悟
ーーーまた、「アイツ」が何かしたんだな


察した五条に気付いたあなたがはたと我に返る。

弁明しようとしたが、それを遮るように正面に身体を向かされて、目の前に蒼い瞳が降りてきた。


見透かすようにじっと目を合わせてくる。
あなたは横に目を逸らした。
あなた
ち...がうって
あなた
探しものして疲れたんだ

そのまま認めたって良かったのだとは思う。

だけど、それがわかったところで、五条が憤慨するだけ。
縛りの制約上、五条が甚爾と自分の間に入ることは出来ない。

無意味に五条の精神衛生を乱すことはしたくない。
五条悟
...俺のことガキだって思ってるんだろ
あなた
思ってないない!
あなた
...。
あなた
ほーら悟先輩おいでーよしよし
五条悟
.....
我ながらあまりに下手な誤魔化し方だと思う。
だけど、目の前の六眼を封じるように思い切り抱き返せば、五条は不満げにしながらも押し黙った。
あなた
困ってて、疲れたのはほんと
あなた
悟だってめちゃくちゃ調べた後疲れるだろ
五条悟
...何調べてたんだよ
あなた
難しいんだ...。表現するのが
あなた
正確には俺の呪力で出来る限界、って言いたい
五条悟
あなたの反転術式のことか?
五条悟
呪力操作としてはこれ以上ない精度だと思うけど
五条悟
硝子のより呪霊への攻撃性もあるし、
一年の任務の成功率も底上げしてる
五条悟
上の方でもかなりあなたのこと
評価してきてるって夜蛾先生も言ってた
あなた
嬉しいけど、そういうんじゃなくて
あなた
...
五条悟
限界って?何がしたいわけ
あなた
うぐ、

直球で聞いてくる五条の言葉に、あなたは身を屈める。
五条の眼は、あなたの散らかした本の山に向けられていた。


そう。
明確には決まっていない...
と、云いつつ。

積み上げられた本たちには大まかな共通点があった。
五条悟
傀儡操術、呪骸...式神...
五条悟
ちょっとあなたのイメージとは離れて見えるけど
あなた
俺のこと、笑うし、ぜったい
五条悟
笑わねえよ!俺のこと何だと思ってんの

突っ込みながら五条がぎゅうう、とあなたに抱き着く。
あなた
...
あなた
.....たい
五条悟
なに、もっかい
あなた
悟たちのこと、守りたい
あなた
俺だって仲間なんだから

五条が大きく目を見開く。
少し頬を赤くしたあなたが、五条を見上げている。


ーーー伏黒甚爾を止める。
言うは易いが、とんでもなく高い壁だ。

もし呪術界に彼のつけた傷が走っていき、
高専にいる七海や五条たちに届くようなことがあれば。

甚爾も無傷では済まないだろう。
俺ごと東京から離れさせるくらいだ。


...知っておきながら、
双方が苦しむような結果になったら。
あなた
(俺は俺を呪うよ)

自分の呪力は、回復と浄化向きの、正の呪力。
何とかして「離れていても」みんなを守れるように出来ないか。
"人形ヒトガタ"のように、身代わりとなるようなものをつくれないか。

その結果が、遠隔の傀儡操術や、夜蛾に教鞭を求めた呪骸だったのだ。
あなた
って、うわっ!
五条悟
はー....
あなた
髪、かみっ!ぐしゃぐしゃなんだけど!?

五条が無言で唐突に頭を撫で回してきて、あなたが叫ぶ。

さんざ掻き回した後、
ようやく落ち着いてきた五条はあなたの頭頂部に口付ける。


好き。

何いまの表情。
俺(達)を守りたいから?


アイツーーーあなたに縛りをさせやがった術師のことは相変わらず殺したい程気に食わないが、今のあなたの言葉は本音だった。
五条悟
それで、あなたなりに方法考えてんだな
あなた
...ああ
あなた
俺の欠片みたいなのをさ、
こう、ばーってばら撒けたらいいのにな
五条悟
何それコワ
五条悟
いつも治してくれてんじゃん。
それじゃ駄目なわけ?
あなた
これから...何が起きるか、わからないし...
あなた
最悪、俺が近くにいない時とか
あなた
手札のストックとして持っておきたい
五条悟
...ふーん
五条悟
(俺のがお前のこと心配してるって思ってたのに)

五条はあなたの言葉をすんなりと受け入れた。


不思議な感覚だった。
守るべき対象だから、というのは
あなたがここにやって来てから何度か聞いた。

変わってるなと思った。
弱いくせに大人ぶってんじゃねーよとも思った。




だけど、今はただ嬉しくて、照れくさい。

あなた
得られたものだけじゃなく、
元々持ってるものも押し付けられたら
良かったのにな...
あなた
冗談抜きで、俺の分身みたいなーーー

五条の腕の中で愚痴っていたあなたが、
はっと何かに気付いて言葉を止める。
あなた
(え?待てよ、俺)
俺の欠片があれば、
俺が分身できたなら。

そんなことを思うあなたに、一つの考えが浮かんだ。
ずっと悩んでいた。
俺の、今の身体は何なのか。


夏油傑の魂は若き肉体に遡っている。
同時に、幼い俺は上書きされることなく過ごしている。
同じ時空に、二つの身体は高確率で存在し得ない。


じゃあ。
そこにもし、「あぶれた」魂が存在していたら。


あなた
(この世界で顕現している)
あなた
(この身体の正体は)
あなた
(皆が知覚した)
あなた
(すり減る...確かな"中身")
あなた
(悟が言う通り)
あなた
(もし俺が現実で「死」んでいるのなら)

"魂"を核にした、それはまるでーーーー。
あなた
(確定じゃ無い、表には出せない)
あなた
(だって気付かない。解る訳ない)
俺だって、過ごして気付かなかったんだから。
五条悟
あなた...どうした?
あなた
や、な、なんでも、ない
あなた
(悟にも言えない。俺が、)
あなたは動揺して、地面を見下ろす。
震えないように、体を律した。

あなた
(俺自体が、呪霊かもしれないって)

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