昼食の買い出しから戻り、休憩室でカップラーメンに湯を注いでいると、急に院長から呼ばれた。
どうやら急患らしい
そんなことを考えながら、飼い主との問診が始まった。
相当慌てているようだ
僕は飼い主を落ち着かせようと微笑みながら聞いた
それは......
結構まずいかもしれない
レオ君を診察台に移す
『レオ 5才 去勢済み オス猫』
それと、昨日から尿が出ていない
診察してみてわかったが、おなかが張ってる。というよりか膀胱が硬くなっている
これは...
その瞬間だった
カァーン......
小さくはあるが鐘の音が聞こえた。
「尿道閉塞」
膀胱から尿を体外に排泄するための尿道が何らかの原因で詰まってしまい、尿が出なくなってしまう病気のこと
放置してしまうと、急性腎障害や尿毒症につながり命にかかわることもあるぞ
この病気で最も多い原因は尿道に結石が詰まってしまうこと
結石のほかにも膀胱炎から炎症物質がたまってしまったり、ゼリー状の分泌物がたまってしまうこともある
(尿道栓子と呼ばれる)。
みんなも飼い主なら、ペットがトイレをしているときは時々注意してみるのも大切かも!
採血をして、血液を調べている間に僕は腹部の画像検査を行う。
血液検査の結果からも、腎臓にダメージがあることが分かった
僕は、飼い主にレオ君が危険な状態にあり、手術が必要であると伝えると、
とても、動揺していたが手術に同意してくれた
僕は絶対助けますから、と言い残して、処置室へ急いだ
処置室のドアが静かに閉まる
レオは鎮静の効果もあり、力なく横たわっている。
時計を見る。
13:05
深く息を吸った。
この処置を担当するのは自分だ。
院長は隣町への往診に出ており、この場にはいない。
判断も責任も、すべて自分が負う。
頭の中で、手順を整理する
焦りは禁物、丁寧に、丁寧に、
視線をレオへと戻す。
額には汗がにじんできている。室温のせいではなく、集中しているといつもこうなる。
その時だった
カァン
先ほどよりもはっきりと
僕はこの音が自分しか聞こえていないことを知っている。
今、レオの命のは危険な淵ある。
でも、
ゆっくり息を吐き、落ち着きを取り戻す。
その一言を自分にも言い聞かせる。
絶対助ける
時計の針だけが静かに進んでいく。
処置室に言葉はほとんどない。必要な報告だけがたんたんとやり取りされる。
丁寧に丁寧に
急ぐのと、焦るのは全く違う。
院長の言葉を思い出す。
丁寧なのが一番早い、と
ーー数分後
レオの苦しそうにこわばっていた体から力が抜けていく
もう鐘の音は聞こえない。
僕は、レオの頭に手をおき
といった。
時計を見る
13:43
無事、手術は成功した。
処置から数十分後
レオは静かに入院ケージの中で眠っていた。
呼吸は穏やかで、苦しそうな表情はもうない。
御影はカルテを閉じると、待合室へ向かった
椅子に座っていた男性は、僕の姿を見つけるとすぐに立ち上がる。
僕は小さくうなずき、小さく微笑み
飼い主さんは唇をかみしめる
穏やかに続ける
飼い主さんは、目を潤ませながら何度もうなずく。
僕は優しく微笑んだ
飼い主さんは深く頭を下げてもう一度礼を言った
僕もつられて、軽く頭を下げた
飼い主さんはレオ君のいる手術室に目をやると
といった
もうそこには鐘の音は聞こえない。
聞こえるのは静かな呼吸とそこに命がある確かの保証だけだった。
14:30
昼食を食べていない僕は空腹感に襲われ、足早に休憩室へと向かうのだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!