リノside
俺の頬を指さしながら放たれた乾いた声が、部屋に鈍く振動した。
頬は、昨日の仕事で怪我をした。
赤くて新しい切り傷がまだくっきりと残っている。
スンミナはいつも通りつまらなさそうな声を出し、ちらっと俺の方を見てからすぐに目を逸らす。
窓から朝の日差しが差し込んで、彼の長いまつ毛がふんわりと光った。
最初は冷酷で他人に無関心だった殺し屋も、次第に成長してきたらしい。
ゆっくりと、不器用ながらに言葉を伝えようとする姿は、ちょっと愛おしくて。
柄に合わず、少し感動し____
唐突に言い放たれた 「殺す」 という言葉が何度も脳内で反芻され、
さっきまでの感動は一瞬にして消え去った。
屈託のない笑顔に、至って真面目な口ぶり。
どうやらスンミンなりの恩返しのつもりらしい。
やっぱ殺し屋の考えることはよく分からない。
命を狙われているはずなのに、嬉しそうな顔を見ると全てを許してしまいそうになる。
どうにも俺は、スンミンの笑顔に弱いらしい。
〜〜〜
初めてスンミンと仕事に向かった。
とある港で悪質な取引が行われていて、政府は表立って動けないから託された仕事。
流血沙汰にするつもりは無かったが、相手側が攻撃を仕掛けてきたのでやむを得ず応戦した。
白い肌に、長く線を引いた返り血。
眼光は鋭く光っていて、やっぱりスンミナは“殺し屋”なんだなって再認識する。
スンミンは、返事はしてくれたものの、
どこか遠くを見つめて
血の海に茫然と佇んでいた。
皮肉なことに、
彼にはどうしようもなく、赤が美しく映えてしまう。
白くて細長い指を握りしめると、少し時差があってから握り返される。
きっと感じていないのだろう。
スンミナの背中には新しく大きめの切り傷ができていて、
それなのに痛み一つ感じていない様子で、
きっと、俺がどんな強さで、どんな温度で手を握っているのかも分からないのだろう。
繋いだ指先から、ゆるりと血が滴り落ちて、
白い床に赤い模様をつけていた。
受話器越しに場違いな明るい声。
当分聞くことがないだろうと思っていた能天気な声。
ごめんね。リノヒョン。
俺、人のお願い事は断れないんだ。
To be continued.

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!