緑谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°
病室に皆がお見舞いに来てくれて、飯田くんが重傷の皆の事を教えてくれた。
飯田「だから、来ているのはそのうち3人を除いた……」
麗日「15人だよ」
轟「爆豪と百々いねぇからな」
芦戸「轟!!」
……。
かっちゃん……あなた。
緑谷「オールマイトがさ、言ってたんだ。手の届かない場所には助けに行けないって。だから、手の届く範囲は必ず助け出すんだ。僕は……手の届く場所にいた。必ずたすけなきゃぃけなかった。僕の個性は……っ、その為の個性なんだ……っ、」
涙が出てきて声が震えて、視界が歪む。
切島「じゃあ、今度は助けよう」
「「は?」」
切島「実は俺と轟さ、昨日も来ててよ」
ここに同じく入院している八百万さんが、脳無と遭遇した際発信器を取り付けたと、訪ねてきていたオールマイトと警察の人に探知機を渡していたらしい。
受信デバイスをもう一つ作ってもらい、自分たちでかっちゃんとあなたの救出に行こうと言うのだ。
勿論、飯田くんをはじめ皆が反対した。
そしてその中で_________。
佐藤「……百々って、どっちなんだよ」
障子「おい」
そう呟いた佐藤くんに、視線が集まった。
佐藤くんは唇を噛み締めて、確かに僕が意識を失う前にそう言っていたと思い出した事をもう一度述べた。
佐藤「あいつ……自分から敵の手を取って向こうに行きやがった。爆豪は拐われたのはそうだけど、あいつに関しては……ただ俺たちを裏切った_____いや、元々ヴィランだったんじゃねぇのか……?」
上鳴「そこに関してはっ!!!警察も先生も言ってただろ!?確かな証拠がない限り断言はできないって……!」
佐藤「じゃあお前らは思わねぇのかよ!?クラスメートをさらった犯罪者連中の仲間が、俺たちのクラスにいたかもしれねぇんだぞ!?正直あいつのこと100%信用してねぇやつは俺以外にもいるだろっ、なぁ!?」
あなたが……裏切った?
元々、ヴィラン?
僕の未だハッキリしていない頭の中ではその時、オールマイトの言葉と死柄木の言葉、そしてあなたの言葉が重なって何度も往復した。
切島「あいつは……ぜってぇ違う!!なんか理由があったんだ!爆豪とあなたが話してるの、お前らも何回も見てんだろ!?あれ見てまだ疑うなんて言えんのかよ!?」
飯田「…………僕は、以前彼女に命を救われた」
飯田くんはキュッと固く拳を握り、その手を震わせた。
飯田「しかし……引っかからない点がないかと言えば嘘になる」
切島「飯田……お前、本気で言ってんのか?」
飯田「……客観的に見て、この状況で百々くんが信用に値する理由の方が少ない、と言っているんだ」
轟「……俺は、皆知ってるだろうが百々に同じように助けられた。だが………俺があいつを信じる理由は、それだけじゃない」
轟くんは小さく息を吐いて、皆を見渡す。
轟「以前、あいつは言っていた。自分の抱えているものを全て話すことはできないと。苦しそうに顔を歪めながら、心底辛そうに、目に涙を浮かべていた。それでも、信じていて欲しいと。今はまだ言えないが、皆を_____俺たちのことを守りたいと思っているのは紛れもない事実で、自分がする行動は全部、皆を守る為のものだから、と」
緑谷「……!」
そうだ。
体育祭の日、あなたは言った。
僕達を守るために、体育祭で結果を残すと。
あれの言葉の意味は分からなかったけど、轟くんの言葉で少し、繋がって見えた気がした。
轟「正直、この状況であいつを疑うのも仕方がないとは思う。ただ俺は、これでも百々と時間を共にした。あいつが俺たちを裏切ってヴィラン側に寝返るような奴じゃねぇことは、俺が1番よく分かってる」
そう言って、最後に僕の顔をじっと見て。
轟「だから俺たちは、爆豪も、百々も。どっちも助けに行く」
切島「緑谷!!まだ手は届くんだよ!!助けに行けるんだよ!!」
切島くんは僕に手を伸ばして、その悔しさと怒りとを言葉に詰めて渡してきた。
静まってしまった病室にお医者さんが入ってきて、皆は続々と出て行った。
切島くんは1人こっちにきて、僕に低いトーンでいう。
切島「八百万には昨日、話をした。行くなら速攻、今晩だ。重症のおめぇが動けるかは知らねぇ。それで誘ってんのは、おめぇが1番、悔しいと思うからだ。_________今晩、病院前で待つ」
緑谷「…………」
飯田くんの意見も、蛙吸さんの話も、佐藤くんの疑心も、切島くんの悔しさも、轟くんの信じたいという気持ちも、全部痛いほどわかる。
分かるからこそ……僕は…………。
・
・
夜、僕と八百万さんは病院前に出て、切島くんと轟くんと落ち合った。
そこに、飯田くんもやって来て。
5人で向かうことに決まり、八百万さんは僕達を一旦止めて話をした。
八百万「これは……あくまで私の推測ですし彼女が本気で言っていたのかも分からないのですけど……」
そう言って、轟くんをチラッと見て、また視線を落とした。
八百万「轟さんのことを、放っておけないと、言っておりましたの。あなたさんが」
轟「……俺を?」
八百万「そして……もし自分がいなくなったら、皆さんが立派なヒーローになれるよう、私に導いて欲しいと、言いましたの」
緑谷「……いなくなったら、って……」
八百万「分かりません。直後に笑って冗談だと言っていましたが、それが今回のことを指していたのかこれからのことなのか、偽りなのかも分かりません。でも唯一、轟さんをはじめ……私たちのことを心から思ってくれているということは、私にも分かりますの」
胸に手を当てて、「だから……」と声を震わせた。
八百万「私、あなたさんを信じますわ!あの言葉に嘘偽りはないと、信じます」
そう断言して、「助けに、行きましょう」と足を踏み出した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。