そう誠一は言っていた。
あと少しで梅雨が明けるころ,ずぶ濡れのまま,部屋のまえで泣いていた。
まだ7月の初め頃。夏はこれから始まるというのに誠一の体はひどく震えていた。
これは消したくても消せない,そんな話で始まるあの夏の記憶だ。
僕は誠一の話が理解できなかった。
誠一が人を殺した…?虐められてた…?
僕の頭はぐわんぐわんしていた。
もう何が何だか分からなくなっていた。
でも,この言葉だけは何も考えなくても自然と口から出てきていた。
財布を持って,ナイフを持って
お菓子もゲームも大事なものは全部カバンに詰め込んで
いらないものは全部,壊していこう
学校行事で撮ったあの写真も,一生懸命書いたあの日記も今となっちゃもういらないさ
人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ
そして僕らは逃げ出した
あの醜くて狭いこの世界から
家族のこともクラスの奴らも
なにもかも捨てて君と二人で
普通なら怖いはずの僕らの旅も
二人ならなにも怖くなかった
遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ?
もうこの世界に価値なんてないんだから
探せば人殺しなんてそこら中湧いてるじゃんか
僕らはなんやかんやで仲が良かった
性格も好みも全然違うけど一番気が合う二人だった
一番信頼していた人だった
そんなことを思い出しながら二人で「どうやって死のうか」なんて話しながら歩いていた。
そういい僕は誠一の手を握った。
前に握ったときは震えていたのに今となっては全く震えていなかった
誰にも邪魔されずに二人で線路の上を歩いていた
前の僕らでは考えられない「ちょっぴり」悪いこともして二人で逃げていた
僕らならどこにでも行ける気がしたんだ
今更怖いことなんか僕らにはなかったみたい(笑)
額に出てきた汗も,前まで気にしてた虫たちも
今となっちゃどうでもいいさ
あぶれ者と小さな逃避行の旅だ











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!