雨。
バイト終わり、店先で立ち尽くす俺に、傘を貸してくれた人がいた。
折り畳み傘を二本差し出してにっこり笑う男性は、常連のサラリーマン。
雨の街に消えていく後ろ姿を、追いかけられなかった。
翌朝、お礼のコーヒーと共に傘を返す。
この人は何歳くらいだろう。
一瞬心を読まれたのかと思った。
十歳差。
恋愛対象には、なれないよなぁ。
友達にオシャレなカフェがあるからと誘われて入った店だった。
そこで、カウンターに座るこの人に一目惚れした。
次の日には面接を受けて働き始めた。この人に会いたかったから。
今日、彼の左手の薬指に、指輪があった。この間まではなかった。
メガネの奥で幸せそうに微笑む彼。
________苦しかった。
冷えた空気に歩き出す彼。
彼が帰るのは、愛する誰かのいる、暖かい場所。
出た言葉と思った気持ちが、真反対で笑ってしまった。
憎いほど晴れた空を仰ぐ。
その日、長く働いたそのカフェを辞めた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!