暖房を付けていたはずなのに、何故か寒気が襲ってくる。
冬だからしょうがないと思えばそれまでだけど、
どうしようも無く不安が湧き出てきた。
虫の知らせ、とでも言うのだろうか。
もしかして、言ちゃんが目を覚ましたのかな。
まあ、そんな事は到底起きないだろう。
兎に角、布団を被り直そうと少し体を起こした瞬間、
僕は異常事態に気付いた。
固く閉ざしていた玄関のドアが開かれ、
そこから懐中電灯の光が差し込んでいるのだ。
ガチャガチャと聞こえる金属の音は、
なんだか不気味に聞こえた。
開かれた扉から冷たい北風が吹き込み、
僕達の暖かい空気を剥ぎ取っている。
ドアの方から話し声が聞き取れたけど、
内容までは聞き取れなかった。
部屋の温度が下がる事に心臓の鼓動は早まり、
僕の呼吸はどんどん浅くなっていく。
さっきまでの眠気は嘘のように消え去り、
心の中には恐怖が芽生え出している。
衝撃のあまり、真っ白になった頭で必死に思考を巡らした。
さっきの音は、鍵が開けられる音だったのか。
警戒していれば、きっと気付けていた。
「家に居れば安全だ」
という考えを持って油断していた自分を悔やんでも、
過ぎた時間は巻き戻らない。
僕は先輩が家に入ってきたのだと思った。
職場でも同じ様に、寝込みを襲われた事があったから。
寝込みを襲われ、何とか逃げ出した時先輩にこう言われた。
「次は絶対逃がさないよ。
どこへ行っても見つけ出すし、
捕まえるまで一生探し続けるから。」
「それまで待っててね、問くん。」
長い前髪の隙間から見えた先輩の表情は、
ニタニタとした無邪気な笑顔だったけど、
目の奥は金属のように冷えきっていた。
無邪気に笑う人間を見て恐怖を感じたのは、
これが初めてだと思う。
先輩の手には、刃物が握られていた。
職場で嫌という程嗅いでいた、
牛乳に浸した生肉が腐ったみたいな異臭が、
どこからか強烈に香ってくる。
新鮮な空気を求めて口呼吸してみたけど、
全く無意味だった。
そのドブみたいな匂いが、寝る前に撒いた芳香剤と混ざり、
更に耐え難い匂いへと変化しだした。
呼吸することも儘ならない異臭に顔を顰めながら、
僕は静かに覚悟を決めた。
本当はあまり動かしたく無かったけど、やむを得ない。
君なら解ってくれるはずだ。
喉にせり上がってくる消化物を何とか抑えながら、
ピクリとも動かない君と一緒にクローゼットへと避難した。
腕の筋肉は限界を迎えて攣りそうだったけど、
言ちゃんの為なら動かせられている。
ここなら、最後の時間を邪魔される事は無いだろう。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。