第62話

たい焼き半分 🐹🐶
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2026/05/14 06:35 更新
冬の夕方。

商店街には、あたたかい湯気と夕飯の匂いが漂っていた。

「寒……。」

髙塚大夢はマフラーに顔を埋めながら歩く。

隣では藤牧京介が両手をポケットに入れたまま、静かに笑っていた。

「大夢、毎年それ言ってる。」

「だって寒いじゃん。」

「冬だからな。」

二人は仕事帰りだった。

駅までの近道として通った商店街で、ふと京介が立ち止まる。

「……まだあったんだ。」

古いたい焼き屋。

小さな店だが、夕方になるといつも行列ができる。

大夢が店先を覗き込む。

「食べる?」

「食べる。」

即答だった。

数分後。

焼きたてのたい焼きを受け取る。

「熱っ。」

大夢が慌てる。

京介は少し笑いながら袋を持ち直した。

「子どもか。」

「いや熱いって。」

歩きながら、二人でたい焼きを頬張る。

外は寒いのに、手の中だけあたたかい。

「京介ってさ。」

大夢が言う。

「ん?」

「昔から甘いもの好きだよね。」

「悪い?」

「意外だなって。」

京介は少し考えてから言った。

「疲れてる時、甘いの食べると落ち着く。」

「へえ。」

「大夢は?」

「俺?
俺は……なんか、冬に食べるたい焼きが好き。」

「限定的だな。」

二人で笑う。

その時。

大夢のたい焼きから、あんこが落ちそうになる。

「あっ。」

京介がとっさに手を出す。

「危な。」

「セーフ……。」

でも次の瞬間。

京介の手についていた。

数秒の沈黙。

「……。」

「……。」

大夢が吹き出す。

「何その顔。」

「熱いしベタベタ。」

「ごめんって。」

京介は呆れたように笑う。

「半分寄越せ。」

「なんで。」

「手汚した代償。」

大夢は少し迷ったあと、自分のたい焼きを半分に割る。

「はい。」

京介は受け取る。

「ありがとう。」

商店街の電球が、ぽつぽつと灯り始める。

何気ない帰り道。

でも、こういう時間は案外忘れない。

「また来る?」

大夢が聞く。

京介は半分になったたい焼きを見ながら答える。

「冬の間は、たぶんな。」

冷たい風が吹く。

それでも二人の足取りは、少しだけゆっくりだった。

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