冬の夕方。
商店街には、あたたかい湯気と夕飯の匂いが漂っていた。
「寒……。」
髙塚大夢はマフラーに顔を埋めながら歩く。
隣では藤牧京介が両手をポケットに入れたまま、静かに笑っていた。
「大夢、毎年それ言ってる。」
「だって寒いじゃん。」
「冬だからな。」
二人は仕事帰りだった。
駅までの近道として通った商店街で、ふと京介が立ち止まる。
「……まだあったんだ。」
古いたい焼き屋。
小さな店だが、夕方になるといつも行列ができる。
大夢が店先を覗き込む。
「食べる?」
「食べる。」
即答だった。
数分後。
焼きたてのたい焼きを受け取る。
「熱っ。」
大夢が慌てる。
京介は少し笑いながら袋を持ち直した。
「子どもか。」
「いや熱いって。」
歩きながら、二人でたい焼きを頬張る。
外は寒いのに、手の中だけあたたかい。
「京介ってさ。」
大夢が言う。
「ん?」
「昔から甘いもの好きだよね。」
「悪い?」
「意外だなって。」
京介は少し考えてから言った。
「疲れてる時、甘いの食べると落ち着く。」
「へえ。」
「大夢は?」
「俺?
俺は……なんか、冬に食べるたい焼きが好き。」
「限定的だな。」
二人で笑う。
その時。
大夢のたい焼きから、あんこが落ちそうになる。
「あっ。」
京介がとっさに手を出す。
「危な。」
「セーフ……。」
でも次の瞬間。
京介の手についていた。
数秒の沈黙。
「……。」
「……。」
大夢が吹き出す。
「何その顔。」
「熱いしベタベタ。」
「ごめんって。」
京介は呆れたように笑う。
「半分寄越せ。」
「なんで。」
「手汚した代償。」
大夢は少し迷ったあと、自分のたい焼きを半分に割る。
「はい。」
京介は受け取る。
「ありがとう。」
商店街の電球が、ぽつぽつと灯り始める。
何気ない帰り道。
でも、こういう時間は案外忘れない。
「また来る?」
大夢が聞く。
京介は半分になったたい焼きを見ながら答える。
「冬の間は、たぶんな。」
冷たい風が吹く。
それでも二人の足取りは、少しだけゆっくりだった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。