楽屋の扉を開けた瞬間、
いつもと同じ空気が流れてきて
少しだけ肩の力が抜けた。
「おはよー」
「おはようございます」
「よろしくお願いします!」
あちこちから声が飛んでくる。
誰かがストレッチをしていて
誰かが軽く声出しをしていて
誰かはソファに座ってぼーっとしている。
——いつも通り。
ここがドームの楽屋だってことを
一瞬忘れそうになるくらい。笑
目が合って、軽く手を上げる。
それだけのやり取りなのに、なんだか安心する。
部屋の中を見渡す。
衣装はすでにラックに整えられていて
テーブルの上には
差し入れやドリンク、軽食が並んでいる。
スタッフの人たちも忙しそうに動いていて
インカム越しに飛び交う声が、
今日が特別な日だってことを教えてくる。
「あと30分でスタンバイ入りまーす」
外から聞こえてきた声に、空気が少しだけ引き締まる。
でも、それでも。
ここがどれだけ大きな舞台でも、
この人たちはこの人たちのまま。
そのことが、なぜかすごく嬉しい。
緊張してるはずなのに、
この空間にいると少しずつそれが溶けていく。
……いや。
違う。私は、たぶん。
私の方が緊張してる…笑
ステージに立つわけじゃないのに。
でも、胸の奥がずっと落ち着かない。
あの広い会場。
これから埋まる客席。
そこに立つ7人。
昨日、あの静かな空間で見た景色が、
頭の中に何度も浮かぶ。
でも、その一瞬のやり取りで、少しだけ気が楽になる。
その声で、空気が一段変わる。
さっきまでのラフな雰囲気が、すっと締まる。
でも、ピリついてるわけじゃない。
静かに、集中が集まっていく感じ。
……。
私は少し後ろから、その様子を見る。
7人が並ぶ。
それぞれが、自然に呼吸を整えている。
誰も焦っていない。
でも、確実にスイッチが入っているのが分かる。
——大丈夫。
ふと、そう思う。
昨日、りゅうへいが言っていた言葉。
みんなそれぞれ、思いを抱えてここに立ってる。
それでも。
ちゃんと前を向いてる。
まなとに名前を呼ばれて、顔を上げる。
軽く笑って言われる。
その一言に全部込める。
頑張って、とか、いろんな言葉はあるけど。
今は、それで十分な気がした。
スタッフの合図。
扉の向こうから、ざわめきが聞こえる。
会場が、もうすぐ始まる空気をまとっている。
7人が、順にステージへと向かう。
その背中を見送る。
さっきまでの楽屋の空気を思い出す。
あの、いつも通りの笑顔。
いつも通りの会話。
だからきっと、大丈夫。
私は深く息を吸って、静かにその瞬間を待った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。