第187話

ドーム_9
801
2026/05/03 13:49 更新
楽屋の扉を開けた瞬間、

いつもと同じ空気が流れてきて

少しだけ肩の力が抜けた。


「おはよー」

「おはようございます」

「よろしくお願いします!」


あちこちから声が飛んでくる。

誰かがストレッチをしていて

誰かが軽く声出しをしていて

誰かはソファに座ってぼーっとしている。


——いつも通り。

ここがドームの楽屋だってことを

一瞬忘れそうになるくらい。笑
LEO
あなた!おはよー!
あなた
おはよう!
目が合って、軽く手を上げる。

それだけのやり取りなのに、なんだか安心する。

部屋の中を見渡す。

衣装はすでにラックに整えられていて

テーブルの上には

差し入れやドリンク、軽食が並んでいる。


スタッフの人たちも忙しそうに動いていて

インカム越しに飛び交う声が、

今日が特別な日だってことを教えてくる。


「あと30分でスタンバイ入りまーす」


外から聞こえてきた声に、空気が少しだけ引き締まる。


でも、それでも。
SHUNTO
ねぇれおくん、こいつガチで弱い!
RYUHEI
はー?さっき俺が勝っただろ!
LEO
…君らさぁ笑
いいかげんにしなさいっ!笑
SHUNTO
お話にならない
RYUHEI
いや、こちらのセリフ〜
ここがどれだけ大きな舞台でも、

この人たちはこの人たちのまま。

そのことが、なぜかすごく嬉しい。
緊張してるはずなのに、

この空間にいると少しずつそれが溶けていく。


……いや。

違う。私は、たぶん。


私の方が緊張してる…笑
ステージに立つわけじゃないのに。


でも、胸の奥がずっと落ち着かない。

あの広い会場。

これから埋まる客席。

そこに立つ7人。

昨日、あの静かな空間で見た景色が、

頭の中に何度も浮かぶ。
RYOKI
あなた?
あなた
…ん?
RYOKI
顔硬いぞ
あなた
え、ほんと?笑
RYOKI
うん、珍しいね
あなた
…今日はさすがに笑
RYOKI
…俺らね?ステージたつの笑
あなた
分かってるよ笑
でも、その一瞬のやり取りで、少しだけ気が楽になる。
スタッフ
5分前です!!
LEO
はーい!よし、行くかぁ!
その声で、空気が一段変わる。

さっきまでのラフな雰囲気が、すっと締まる。

でも、ピリついてるわけじゃない。

静かに、集中が集まっていく感じ。


……。


私は少し後ろから、その様子を見る。


7人が並ぶ。

それぞれが、自然に呼吸を整えている。


誰も焦っていない。


でも、確実にスイッチが入っているのが分かる。


——大丈夫。


ふと、そう思う。

昨日、りゅうへいが言っていた言葉。


みんなそれぞれ、思いを抱えてここに立ってる。



それでも。


ちゃんと前を向いてる。
MANATO
あなた
まなとに名前を呼ばれて、顔を上げる。
MANATO
…行ってくる
軽く笑って言われる。
あなた
…うん、待ってる
その一言に全部込める。

頑張って、とか、いろんな言葉はあるけど。

今は、それで十分な気がした。

スタッフの合図。

扉の向こうから、ざわめきが聞こえる。

会場が、もうすぐ始まる空気をまとっている。

7人が、順にステージへと向かう。

その背中を見送る。



さっきまでの楽屋の空気を思い出す。

あの、いつも通りの笑顔。

いつも通りの会話。

だからきっと、大丈夫。

私は深く息を吸って、静かにその瞬間を待った。

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