首領はそう言って、
手を少しあげてから 静かに下ろした。
これは “体を屈めろ”という合図。
それに気が付き、直ぐ様その場に膝をつく。
首領は奴らの言葉に耳を傾けることなくそう告げる。
間もなく、倉庫に無数の銃声が鳴り響いた。
帰りの車。
雨が窓硝子を叩き、
ワイパーがリズミカルに動く。
車内には革と雨の匂いが充満し、
肩から滴る血がシートに黒いシミを滲ませている。
私の隣に座る首領は 不意にそう呟いた。
包帯で左目が隠されているから
表情はよく見えない。
だけど、先刻敵に放った声色とは
大きく違って 優しい声色に感じる。
微かに感じる優しさ。
それだけで少し嬉しくて……
だけど、それと同時に私の心は今も蝕まれてる。
確認したい。あのナイフのこと。
刻印のこと。偽造品のこと。
太宰さん……首領は、どこまで知っているのか。
だけど、それは言葉に出してはならない
“滅びの呪文”のような気がして、開いた口を紡ぐ。
心の中を漂う気持ちに整理が付けられず、
ただ私の心を容赦なく切り裂いている。
私が抱いている、一番の疑問。
私を助ける為に
首領は態々あんな危険な場所に来てくれた。
もしあの時、首領の身に何かあったらと
考えるだけで 冷や汗が頬を蔦う。
首領は珍しく 探るような口調でそう言った。
首領の思惑が理解できず、
なんと返せばいいかわからないまま 口を閉じる。
すると首領は少し溜め息をついて、
窓の外に視線を向けた。
襟の隙間から 彼の骨張った首が覗いている。
首領はそう言って、此方を向いた。
包帯で隠れていない方の瞳は
空虚を思わせる程の黒い闇が渦巻いている。
それと同時に、「これ以上求めるな」と
私を遠ざけているかのように感じて胸が痛くなった。
彼はいつも 一人では背負いきれないような
とても大きな“ナニカ”を抱えて生きている。
その破片のひとつでも、
私に背負わせてくれたら…と日々考えてしまう。
それ程に、彼が好きだから。
だけど、彼は首領で私は秘書だ。
その関係が動くことはない。
そう、頭では理解しているから____
彼の肩に手を回し、そっと抱き締めた。
首領である彼にこんな行為。
本来ならば銃殺されても可笑しくない。だけど。
掠れた声で 消え入りそうな声でそう呟いく。
始めは私の腕を掴んで離そうとしていた太宰さんも
ゆっくり手を下ろし、私に身体を任せている。
今 この瞬間だけだとしても、
少しは頼ってくれたような気がして嬉しかった。
少しの沈黙の後、
太宰さんはそんなことを呟いたような気がした。
”その謝罪は 何に対してのものなのか……”
今の私には、そんなことどうでも善かった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。