第6話

#6 不安定な安心感
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2025/04/07 07:00 更新

太宰治
 よくも私の猫を虐めてくれたね。 
太宰治
 覚悟は出来てるのだろう? 
 
あなた
 首領…っ!私____ 
太宰治
 いいから。黙って。 

首領はそう言って、
手を少しあげてから 静かに下ろした。

これは “体を屈めろ”という合図。



それに気が付き、直ぐ様その場に膝をつく。



  巫山戯ふざけンな!
 マフィアの首領がこんな場所くる筈___ 
 
太宰治
撃て。
首領は奴らの言葉に耳を傾けることなくそう告げる。

間もなく、倉庫に無数の銃声が鳴り響いた。






帰りの車。

雨が窓硝子ガラスを叩き、
ワイパーがリズミカルに動く。




車内には革と雨の匂いが充満し、
肩から滴る血がシートに黒いシミを滲ませている。






太宰治
 ……痛む? 

私の隣に座る首領は 不意にそう呟いた。





包帯で左目が隠されているから
表情はよく見えない。


だけど、先刻さっき敵に放った声色とは
大きく違って 優しい声色に感じる。

あなた
 大丈夫、です…… 


微かに感じる優しさ。

それだけで少し嬉しくて……
だけど、それと同時に私の心は今も蝕まれてる。


確認したい。あのナイフのこと。
刻印のこと。偽造品のこと。







太宰さん……首領は、どこまで知っているのか。

だけど、それは言葉に出してはならない
“滅びの呪文”のような気がして、開いた口をつむぐ。




心の中を漂う気持ちに整理が付けられず、
ただ私の心を容赦なく切り裂いている。


あなた
 どうして…… 
あなた
 どうして首領は、
私を助けてくれたんですか…?

私が抱いている、一番の疑問。


私を助ける為に
首領は態々わざわざあんな危険な場所に来てくれた。




もしあの時、首領の身に何かあったらと
考えるだけで 冷や汗が頬をつたう。



太宰治
“新しい秘書を探すのが面倒だから”
と言ったら、君は信じるかい?

首領は珍しく 探るような口調でそう言った。

首領の思惑が理解できず、
なんと返せばいいかわからないまま 口を閉じる。







すると首領は少し溜め息をついて、
窓の外に視線を向けた。

襟の隙間から 彼の骨張った首が覗いている。

太宰治
 ……君を、失いたくなかった。 
太宰治
 これで満足かい? 

首領はそう言って、此方を向いた。

包帯で隠れていない方の瞳は
空虚を思わせる程の黒い闇が渦巻いている。







それと同時に、「これ以上求めるな」と
私を遠ざけているかのように感じて胸が痛くなった。


彼はいつも 一人では背負いきれないような
とても大きな“ナニカ”を抱えて生きている。





その破片のひとつでも、
私に背負わせてくれたら…と日々考えてしまう。

それ程に、彼が好きだから。







だけど、彼は首領で私は秘書だ。
その関係が動くことはない。

そう、頭では理解しているから____

あなた
 首領……太宰さん、 
太宰治
 ……っ、お

彼の肩に手を回し、そっと抱き締めた。


首領である彼にこんな行為。
本来ならば銃殺されても可笑しくない。だけど。

あなた
ごめんなさい。
あなた
 今…この時だけは
私の無礼を赦してください。
 
あなた
 ほんの、少しでいいんです。 
あなた
 少しだけ……。 

掠れた声で 消え入りそうな声でそう呟いく。






始めは私の腕を掴んで離そうとしていた太宰さんも
ゆっくり手を下ろし、私に身体を任せている。


今 この瞬間だけだとしても、
少しは頼ってくれたような気がして嬉しかった。



太宰治
 ……ごめんね。 




少しの沈黙の後、
太宰さんはそんなことを呟いたような気がした。



”その謝罪は 何に対してのものなのか……”
今の私には、そんなことどうでも善かった。

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