__________ 夜、静まり返った桃の家の居間。あたたかい行灯の光が優しく畳を照らしている
あなたの下の名前が桃の家にやってきて、ついに赤い雷のエフェクトを出せるようになってから、さらに数日が経った。
修行を始めて、気づけば2ヶ月。
毎日白い修行着を泥まみれにしながらがむしゃらに木刀を振り続けるあなたの下の名前の姿は、師範や2人の先輩たちの目にも、本当に頼もしく、愛おしく映っていた。
そんながんばり屋さんのあなたの下の名前だったが、今夜はいつもとは違うベクトルで男たちの心をノックアウトしようとしていた。
あなたの下の名前の大大好物。
それは、決してお洒落で豪華なご馳走などではなく、師範の淹れる少し渋くて美味しい煎茶をたっぷり注じて、サラサラッと掻き込む『お茶漬け』だった。
彼女がいつも自分の水筒に煎茶を淹れているのも、ただお茶が大好きだからという、最高に素朴で愛らしい理由だったのだ。
__________ 食卓。お茶が注がれ、湯気がふわりと立ち上っている
善逸の『良すぎる耳』には、あなたの下の名前がお茶漬けを口にして「はぁ〜、最高に幸せ……!」と心底ハッピーになっている綺麗な心音が、過去最高の大爆音で響いていた。
その横で、獪岳は相変わらず不機嫌そうなツラを崩さないまま、腕を組んで彼女をジロリと見下ろしていた。
心の中でいつも通り毒づきながらも、獪岳は懐から、あの夜中のおにぎり事件のときと同じ『高級な鮭のほぐし身の瓶詰め』を無造作に取り出した。
正式に鬼殺隊士として任務に行っている先輩ならではの、ちょっといいお土産だ。
それを彼女のお茶漬けの器の中に、ドンッと乱暴に放り込む。
本当は、お茶漬けの具として最高に合うように、狙ってわざわざ任務の帰りに買ってきたものだった。
善逸の『良すぎる耳』には、獪岳の心音が「あいつ、お茶漬け食べる時だけ、犬みたいに目をキラキラさせやがって……不格好だけど、死ぬほど可愛いじゃねえかクソ。っていうか、俺が買ってきた鮭を入れた時が一番美味そうな音出してんじゃねえか。よし、次は麓の町で一番美味い炙りたらこ買ってきてやる」と、凄まじい大デレの音を響かせているのが丸聞こえだった。
(あいつ、心の中でおかわり催促してんじゃねえよ!!)と、善逸は床を叩く。
いつもの口の悪さで怒鳴り散らしながらも、彼女の頭をガシガシと乱暴に、だけど愛おしそうに撫で回す。
口は最悪だが、彼女の『お茶漬け愛』に完全に胃袋も心も掴まれているツンデレな兄貴だった
_____ みんなに具材をたくさん貰い、お腹も心もいっぱいに満たされたあなたの下の名前。
夜、お布団に入った彼女の耳には、隣の部屋から聞こえる「あなたの下の名前ちゃんがお茶漬け食べる音可愛かったなぁ、明日も美味しい梅干し出してあげよ」という善逸の優しい寝言と、さらにその隣の部屋から「……ちっ、次はどのお茶漬けの具買ってくればいいんだよ、……」と獪岳が布団を被って呟く、最高に照れくさそうな本音が響いていた。白い修行着のまま、お茶漬けを前に「サラサラッ、ぷはぁー!美味しい!」と無邪気に笑う、まだあどけない15歳の後輩。
男ばかりの不器用な桃の家だけど、ここにはあなたの下の名前ちゃんを全力で甘やかし、全力でお腹いっぱいに満たしてくれる、世界一温かい「雷の家族」が揃っているのだった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。