私たちが乗ってきたエレベーター。
私が唯一知っている現実へと戻る方法が見事に打ち砕かれた。
扉の内側からはエレベーターが動いていると思われる機械音がしていて、エレベーターは他のどこかに行ってしまったようだった。
一縷の希望を信じてエレベーターを呼ぶボタンを押してみた。
が、その指がボタンに触れることはなく。
押してみようと思った時にはエレベーターそのものが無くなっていて、元から何も無かったかのようにまっさらな草原が広がっていた。
エレベーターがあった下の部分に土が見えているとか、そこの部分だけ違和感があるとか、何かがあった形跡ごとない。
エレベーターが消えて唖然としていた私の背後から、もう聞き慣れてしまった声が聞こえてきた。
自分でもわかるぐらいガチガチに固まった顔を向けると、またもや純粋な顔をしたリーフさんが首を傾げていた。
リーフさんは明らかに動揺したあと、胸の前でグッとガッツポーズをとった。
ごめんね困惑させちゃって。
とはいうものの、エレベーターがないということは普通に生活する場所がないということになる。
元々こっちに来てからのことを何も考えていなかったのに、エレベーターが跡形もなく消えたとなるともっとよく分からなくなる。
リーフさんのかわいげのあるガッツポーズを青白い顔で見つめながら、これからの事を脳内ですこしばかりイメージしてみた。
まずここからエレベーターが帰ってこないと仮定して。
ほんとに困るのが衣食住。
ここはなんの情報もない異世界だ。
何が起こるかなにも分からないし、なんなら何が食べられて何が食べられないのか、はたまた食べ物なのか判別する術がない。
衣は制服、、、でなんとかなる、、、か?
一生この制服で生活する?
でもそうすると着替えが何も無い。
ほんとになにかもってくればよかった。
ダメ元でネットを使ってみようとスマホを覗いて見たが、もちろんの如く圏外。
まだ圏外ならマシかもしれないのだが、スマホの画面を付けると直ぐにブラックアウトして何一つわからないというおまけ付き。
いまバッグに入っているのは、参考書と、もう中身がない水筒と、筆箱と、、、ジャージくらいか。
着替えをジャージと制服で行き来するか?
いやそれだといつか限界が来るな。
スマホも使えない、ついでにバッグには何も無い。
食はギリギリなんとかなるとして、住と衣に関してはどうにかなる未来が見えない。
、、、なんで私サバイバル生活強いられてんのこれ。
思わず口から唸り声が出る。
1度目を閉じて、本気で衣食住について考え始めた、その時。
目の前のリーフさんの拍子抜けた声で現実に引き戻され、いつの間にか下を向いていた顔を前に向ける。
リーフさんは、なにか思いついたような考えついたような顔をして、ゆっくりと口を開いた。
そんなこんなで私は今、リーフさんの家にいます。
ほんとに国会議事堂ぐらい広い。
床にはいかにもと言わんばかりの白いカーペットが敷かれていて、吹き抜けになっている天井からは、アニメでしか見ないような豪華なシャンデリアが光を反射している。
壁も床と同じ高級そうな石だ。
後ろには私たちが入ってきた大きな扉。
目の前いっぱいに広がっている玄関ホールのような場所からは、左右に長い廊下が続いている。
正面の壁には沢山の振り子時計が掛かっている。
どの時計も、とても正確に時を刻んでいるようだ。
今私たちが立っているのは多分玄関の靴を脱ぐスペースなのだろうが、如何せん右の靴箱が私の家のクローゼットと同じサイズすぎて靴を脱ぐ以前に足が動かない。
ようやく出た言葉はまさかのありがとう。
言葉が出ただけで褒めて欲しいものだ。
指を折って数えるような動作をしているリーフさんを観察していると、左の廊下から足音が聞こえてきた。
音的に多分1人だ。
出てきたのは、リーフさんよりも身長が高い女性。
しかしその女性には、ハッキリとした色があった。
髪は短く黒色。
頭からは黄金色をした牛のような角が生えている。
圧倒的な存在感を誇るつり目は、髪色と真逆の白色をしていた。
服装は豪邸にピッタリな華やかなドレスとかではなく、上は半袖のへそ出しTシャツ。
下半身はすらっとした足がよく見える短パン。
上下はどちらも黒色で、ところどころに白やらグレーやらの差し色が入っている。
靴はスパイクがついた白と黒の紐靴。
リーフさんとは真逆で、悪魔のような見た目だ。
その女性はこちらを見るなり、酷く疑うような眼差しで私を睨んだ。
しかしリーフさんは、その女性を見て顔を綻ばせた。
思わず、リーフさんとリーフさんのお姉さんと思わしき人物を交互に見る。
リーフさんに、お姉さん?
リーフさんのお姉さんは、ヒトの子と聞くなりあからさまに嫌そうな顔をした。
小声だが、ハッキリとそう言われた。
まだ何もしてないのに。
グライドさんは、名前を言うなり来た方向に姿を消してしまった。
反応に困ってリーフさんの方を見ると、リーフさんはどことなく寂しそうな顔をして、グライドさんが消えた方向を向いていた。
私が眺めていることに気づくと、リーフさんは私にその寂しそうな顔を向けて口を開いた。
リーフさんは慌てたような顔をしたあと、目線を逸らして俯いてもう一度口を開いた。
よく状況が飲み込めない。
天使や悪魔という単語が現実味を帯びていないからだろうか。
でも何となくでわかるのだが、グライドさんはツェンリー家の汚点のようになってしまっているようだった。
天使の家系で唯一の悪魔。
嫌われないはずがない。
そこでリーフさんは口を閉ざした。
私に言葉をかける勇気なんてなく、玄関ホールにはどんよりとしたまとわりつく空気が流れる。
最初に口を開いたのはリーフさんだった。
リーフさんは太陽みたいな笑顔をうかべ、また私の手を握ってくれた。
じんわりと伝わってくる温もりに、やっぱりこの人が好きだなと感じた。
人生で初めての友達の家。
さっきまでの空気はどこえやら、今は胸の高鳴りの方が大きくなっていた。
リーフさんに手を引かれて、人生最初の友達の家探検が始まった。
盗み聞きは良くないと分かっている。
が、あいつがヒトの子を連れてくる意味がわからなかった。
あいつの何が、あのヒトの子を夢中にさせるのか。
私にはわからない。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。