魔界で暮らし始めるようになった私は、旦那様のあまりのハイスペックぶりに感嘆のため息を吐いてしまった。
リムフローレ国でもずいぶんな上げ膳据え膳生活をさせてもらっていたように思うが、レグルスの過保護っぷりはそれ以上だ。
彼は魔王城に夫婦の部屋を作り、私が住心地の良い環境をササッと整えてしまった。
魔界には「お風呂」という概念がないらしく、見た目が人間に近い魔族は、身体を清めるために水浴びをしたり、濡らしたタオルで拭いたり、魔力の高いものは自分の魔術で身体の汚れを払ったりしているらしい。
しかし、私はお風呂大好き日本人。
なんとレグルスは私のために温泉まで作ってくれた!
なぜわざわざ熱い湯に浸かるんだ? と疑問そうだったレグルスも私に倣って一緒にお風呂に入るようになったのだが……。
と言っているのに、レグルスは後ろから抱きついてくる。
すっかり甘やかされてしまっている。
レグルスなりに色々と思うところがあるらしい。私はリムフローレ国にはもう戻れないし、どうやら元の世界にも戻れなさそうだった。そのことを気にしているようだ。
レグルスはきっぱりと言った。
元の世界に帰れないのは悲しい。
家族や友人とお別れもできないままなのだ。だけど、どうすることもできない以上、私にできるのは遠く離れた魔界から皆の幸せを願うだけだ。
レグルスは私の住環境を整えることが楽しいらしいが、魔力のない私にお返しできることはもう限られている。与えてもらってばっかりにならないよう、今日はお返しを考えていた。
作ったのは焼きりんご。この世界に来る前に食べたポム・オ・フーはとてもおいしかった。もちろん、プロの料理人の味には程遠く、材料も限られているからまったく同じものではないけれど……。
レグルスは「これがミコの好物か」と言った。
レグルスがりんごにナイフを入れる。
中に詰めたのはカスタードクリームだ。
自分でも味見はしてみたし、この世界の人の舌に合うか心配で、レグルスお抱えの料理人にも確認はしてもらったが……。
私が喜ぶと、レグルスはぱちぱちと瞬きをする。
狂おしそうな顔で笑ったレグルスが私を引き寄せてキスをする。
若干の引っ掛かりを感じたが、レグルスのキスに思考を絡めとられていってしまう。
帰る方法があってもなくても、私はこの先もレグルスの元を離れるつもりはないけれど……。
甘くとろけるりんごの香りがするキスは罪深い味がした。
fin.














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。