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第28話

28、甘いりんごは罪の味
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2026/01/30 09:00 更新
ミコ
ミコ
レグルスって、本当になんでもできるんだね……
魔界で暮らし始めるようになった私は、旦那様のあまりのハイスペックぶりに感嘆のため息を吐いてしまった。
リムフローレ国でもずいぶんな上げ膳据え膳生活をさせてもらっていたように思うが、レグルスの過保護っぷりはそれ以上だ。

彼は魔王城に夫婦の部屋を作り、私が住心地の良い環境をササッと整えてしまった。

魔界には「お風呂」という概念がないらしく、見た目が人間に近い魔族は、身体を清めるために水浴びをしたり、濡らしたタオルで拭いたり、魔力の高いものは自分の魔術で身体の汚れを払ったりしているらしい。

しかし、私はお風呂大好き日本人。
なんとレグルスは私のために温泉まで作ってくれた!

なぜわざわざ熱い湯に浸かるんだ? と疑問そうだったレグルスも私に倣って一緒にお風呂に入るようになったのだが……。
レグルス
レグルス
確かにこれは気持ちがいいな
ミコ
ミコ
ふふふ、そうでしょ?
レグルス
レグルス
だが、俺には少々酷だな。火照ったミコの愛らしい姿を散々見せつけられているのに、触らせてもらえないとは
ミコ
ミコ
のぼせちゃうからだめだよ!
と言っているのに、レグルスは後ろから抱きついてくる。
レグルス
レグルス
ミコはいつまでたっても初々しくて可愛いな
ミコ
ミコ
レグルスこそ、こんな甘々な性格だったっけ……?
すっかり甘やかされてしまっている。
レグルスなりに色々と思うところがあるらしい。私はリムフローレ国にはもう戻れないし、どうやら元の世界にも戻れなさそうだった。そのことを気にしているようだ。
レグルス
レグルス
たくさん甘やかしたいんだ。俺のワガママでミコをこの世界に留めてしまったんだから
ミコ
ミコ
レグルスのせいじゃないよ。元の世界に帰る方法はないんだし……
レグルス
レグルス
……ちなみに、「元の世界に帰る手段がない」というのは誰かに聞いたのか?
ミコ
ミコ
うん。ジルベールもわからないって言っていた。歴代の聖乙女はほぼ皆リムフローレ国の王族と結婚しているみたいで、帰った人の記録はないみたい
レグルス
レグルス
ふうん……
ミコ
ミコ
レグルスは知ってるの?
レグルス
レグルス
知らない
レグルスはきっぱりと言った。
レグルス
レグルス
……分かったとしても教えない
ミコ
ミコ
ん?
レグルス
レグルス
いや、何も
元の世界に帰れないのは悲しい。
家族や友人とお別れもできないままなのだ。だけど、どうすることもできない以上、私にできるのは遠く離れた魔界から皆の幸せを願うだけだ。
ミコ
ミコ
(それに、気に病みすぎたレグルスがあれこれ尽くしてくれるんだもん。落ち込んでばかりいられないよ)
レグルスは私の住環境を整えることが楽しいらしいが、魔力のない私にお返しできることはもう限られている。与えてもらってばっかりにならないよう、今日はお返しを考えていた。
ミコ
ミコ
というわけで、今日は私が食後のデザートを作りました!
作ったのは焼きりんごポム・オ・フー。この世界に来る前に食べたポム・オ・フーはとてもおいしかった。もちろん、プロの料理人の味には程遠く、材料も限られているからまったく同じものではないけれど……。
レグルスは「これがミコの好物か」と言った。
ミコ
ミコ
私がこの話をしたから、レグルスも魔界でりんごを育ててくれたんだよね。りんごはそのまま食べても美味しいけど、火を通しても美味しいんだよ
レグルス
レグルス
いただこう
レグルスがりんごにナイフを入れる。
中に詰めたのはカスタードクリームだ。
ミコ
ミコ
ど、どう……? かな?
自分でも味見はしてみたし、この世界の人の舌に合うか心配で、レグルスお抱えの料理人にも確認はしてもらったが……。
レグルス
レグルス
甘い。りんごは焼くとこんなにも甘くなるんだな。それに、中に入っている、この黄色いソースも食べたことのない味だ。おいしい
ミコ
ミコ
本当? 良かったぁ……
ミコ
ミコ
レグルスが魔界にオーブンを作ってくれたから、絶対に作ってみたいと思ってたんだよね……!
私が喜ぶと、レグルスはぱちぱちと瞬きをする。
レグルス
レグルス
ミコは本当に可愛いな。そんなに喜ばれると、次は何を作ろうかと考えるのが楽しくなる。ミコの世界の話をもっと聞かせてくれ
ミコ
ミコ
うん。喜んで!
レグルス
レグルス
ミコが元の世界で好きだったもの、楽しかったものを再現させていこう。――ミコが帰りたいと思わなくなるまで
狂おしそうな顔で笑ったレグルスが私を引き寄せてキスをする。
ミコ
ミコ
(帰りたいと思わなくなるまで?)
ミコ
ミコ
(帰る方法はないのにな。……ないんだよね? 元の世界に戻る方法は、「知らない」んだよね?)
若干の引っ掛かりを感じたが、レグルスのキスに思考を絡めとられていってしまう。
帰る方法があってもなくても、私はこの先もレグルスの元を離れるつもりはないけれど……。

甘くとろけるりんごの香りがするキスは罪深い味がした。


fin.

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