甘く弾んだ声がグラウンド脇に響く。
あなたはいつものように首を傾け、きらきらとした目で二人を見上げていた。
雪宮はどこかぎこちなく笑い、氷織は静かに相槌を打つ。悪い気はしないが、正直、会話のテンポが掴みづらい。
その空気を、不意に低い声が横から割った。
振り向くと、烏が立っていた。
あなたの心臓が一瞬だけ跳ねる。
けれど顔には出さない。むしろいつもよりも大げさに微笑みを深めた。
甘ったるい声色。
烏はそれに特別な反応を示さず、ただじっとあなたを見下ろす。
やけにその視線が長い。
唐突な問いがとんできて、空気がわずかに張りつめる。
そのとき、あなたの注意が完全に烏へ向いたのを見計らった雪宮がそっと氷織の袖を引く。
小声で囁くと、二人は何食わぬ顔でじり、と後退した。
自然な足取りでその場を離れる。
あなたはまったく気づいていない。
可愛らしく笑いながら返すが、内心は苛立ちでいっぱいだった。
すると、烏は軽く首を傾げる。
それ以上は言わないが、ただ視線だけが探るようにまとわりつく。
あなたはじわりと一歩引いた。
やんわりと距離を取るための言葉。
だが烏は動じない。
淡々とした声が、余計に腹立たしい。
やがて他の選手に呼ばれ、烏はその場を離れた。
解放された、と小さく息をつく。
そのときだった。
背後から柔らかな声がする。
振り返ると、神崎萌子が微笑んでいた。
人目のない廊下へと促されると、そこへ入った途端、空気が変わった。
神崎の笑みが、薄くなる。
声の温度が一気に冷えた。
あなたの背筋に冷たいものが走る。
念のため、まだぶりっ子は崩さない。
神崎はくすりと笑った。
しかし…目が笑っていない。
一歩、距離を詰められる。
声音は穏やかなはずなのに、言葉は鋭い。
あなたはぎゅっと拳を握る。
と、胸の内で烏を恨む。
神崎が小さくため息をついた。
その“優しい”が、ひどく歪んで聞こえる。
彼女の視線が冷たく刺さる。
逃げ場のない問い。
そのとき、廊下の空気が重く沈んだ。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!