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第7話

本命
39
2026/02/27 11:48 更新
あなた
雪宮くぅん、氷織くんもぉ♡ 今日の練習ほんとすごかったですぅ♡
甘く弾んだ声がグラウンド脇に響く。
あなたはいつものように首を傾け、きらきらとした目で二人を見上げていた。

雪宮はどこかぎこちなく笑い、氷織は静かに相槌を打つ。悪い気はしないが、正直、会話のテンポが掴みづらい。


その空気を、不意に低い声が横から割った。


烏旅人
えらい楽しそうやな。何の話や




振り向くと、烏が立っていた。

あなた
(げ…烏……)
あなたの心臓が一瞬だけ跳ねる。
けれど顔には出さない。むしろいつもよりも大げさに微笑みを深めた。

あなた
烏さんもぉ♡ お疲れさまですぅ♡
甘ったるい声色。
烏はそれに特別な反応を示さず、ただじっとあなたを見下ろす。

やけにその視線が長い。

烏旅人
お前、いつもそんな喋り方なんか?
唐突な問いがとんできて、空気がわずかに張りつめる。
そのとき、あなたの注意が完全に烏へ向いたのを見計らった雪宮がそっと氷織の袖を引く。

雪宮剣優
氷織くん…今のうちに…
小声で囁くと、二人は何食わぬ顔でじり、と後退した。

氷織羊
ほな…潔くんとこ避難しよか…
雪宮剣優
うん、行こ…
自然な足取りでその場を離れる。
あなたはまったく気づいていない。

あなた
えぇ〜? 普通ですよぉ? わたし、ずーっとこんな感じですぅ♡
可愛らしく笑いながら返すが、内心は苛立ちでいっぱいだった。

あなた
(なんなん…いきなり)
すると、烏は軽く首を傾げる。

烏旅人
ほぉー?
それ以上は言わないが、ただ視線だけが探るようにまとわりつく。

あなたはじわりと一歩引いた。

あなた
そんなに見られてるとぉ、恥ずかしいんですけどぉ?♡
やんわりと距離を取るための言葉。
だが烏は動じない。

烏旅人
別に。気になっただけや
淡々とした声が、余計に腹立たしい。
やがて他の選手に呼ばれ、烏はその場を離れた。

解放された、と小さく息をつく。

あなた
(ほんま、最悪…)


そのときだった。


神崎萌子
ちょっと、いい?
背後から柔らかな声がする。
振り返ると、神崎萌子が微笑んでいた。

神崎萌子
少しだけ来て
人目のない廊下へと促されると、そこへ入った途端、空気が変わった。

神崎の笑みが、薄くなる。
神崎萌子
ねぇ


声の温度が一気に冷えた。



神崎萌子
私に協力するんじゃなかったの?

あなたの背筋に冷たいものが走る。

あなた
な、なんのことですかぁ?
念のため、まだぶりっ子は崩さない。

神崎はくすりと笑った。

神崎萌子
旅人くんのことに決まってるでしょ?



しかし…目が笑っていない。




神崎萌子
私の本命…烏旅人くんなんだけどさ〜…
神崎萌子
私、彼に振り向いてもらうためにいつも頑張ってんのに
一歩、距離を詰められる。
神崎萌子
なのに、なんであんなにベタベタされてるの?
声音は穏やかなはずなのに、言葉は鋭い。

神崎萌子
勘違いさせたいの?
あなたはぎゅっと拳を握る。

あなた
(知らんしっ…あいつが勝手に来るだけじゃろうが…💢)
と、胸の内で烏を恨む。
あなた
(ほんま…余計なことせんでほしいわ…)
神崎が小さくため息をついた。

神崎萌子
私、表では優しいから何も言わないよ? 
その“優しい”が、ひどく歪んで聞こえる。

神崎萌子
でもね
彼女の視線が冷たく刺さる。

神崎萌子
邪魔だけは、しないでくれる?
逃げ場のない問い。
そのとき、廊下の空気が重く沈んだ。

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