第5話

ぬくもり
168
2025/06/28 11:16 更新

ようやく、中間テストが終わり、


勉強漬けの毎日から解放だ。


今日は午後放課の日、


午前授業の日は、空気が少しだけ浮ついている。


放課後というよりは、“午後”の顔をして、廊下にも光がよく入る。


着替えて帰ろうとロッカーに向かっていた時、


ヘリンに呼び止められた






ヘリン
ヘリン
ねえ、今日……ひま?


スカートの裾を少し整えながら、


ヘリンは視線をそらして言った。

(なまえ)
あなた
なに、急に
ヘリン
ヘリン
んー、なんかちょっとだけ、時間ほしいって感じ。話したいこともあるし
(なまえ)
あなた
いいよ、どこいく?
ヘリン
ヘリン
……うちでもいい?



そう言った彼女の声は、いつもより小さかった。


でも、私は断れなかった。


私が断れないこと、知ってるくせに。


ヘリンの部屋は、


思っていたよりも“かわいらしく”なかった。


整理整頓されていて、香水とスキンケアの匂いが少しだけ残っていた。

ヘリン
ヘリン
適当に座って
(なまえ)
あなた
ありがと
ヘリン
ヘリン
なんかのむ?
(なまえ)
あなた
水でいいよ
ヘリン
ヘリン
素直だね、そうゆうとこ

笑いながらグラスを渡してくるヘリンは、


なんだかいつもより近かった。

ヘリン
ヘリン
あなたって、誰にでもやさしいっていうか、悪く言えば“誰にでも隙がある”って思われてるよ
(なまえ)
あなた
…自覚はある
ヘリン
ヘリン
でも私、知ってる。あのやさしさって、全員に同じじゃない。誰かにだけ、特別な顔してるの、たまにある

私は言葉を返せずに、視線を逸らした。


だけどヘリンは、それを見逃さなかった。

ヘリン
ヘリン
それが、私なのか、私じゃないのか、よくわからないけど、
ヘリン
ヘリン
私はあなたのことが好き
(なまえ)
あなた
ヘリン、、


まっすぐとした彼女の目が綺麗で、


吸い込まれていきそうだった。


彼女は、そっとわたしの手に触れてきた。


指先は少し冷たくて、でもどこか熱を持っていた。

ヘリン
ヘリン
あなた、、


わたしは、その手を振り払えなかった。


それどころか、受け止めた。






目を閉じたヘリンにそっと近づいた、





静かだった部屋が、


熱くなってゆく。




ここで、ヘリンとしたら、


ミンジとは、どうなるんだろう。




ヘリン
ヘリン
あなた、、//


私のスマホの通知が鳴った。

(なまえ)
あなた
ごめん、


ミンジからだ、

📧
ミンジ
ミンジ
テストおつかれさま



ただ、それだけ。


でも、それが、口実。みたいな、気がした


(なまえ)
あなた
ごめん、用事できた、帰る。
ヘリン
ヘリン
わかった、


ヘリン
ヘリン
ねえ、続き。
ヘリン
ヘリン
してね?
(なまえ)
あなた
うん。


って言うしかなかった。


帰り道にしては考えることが多いような気もした。




月曜日。


週の始まりなのに、体の奥が重い。


朝、教室に入っても、


ヘインが何かを感じ取ったのか声をかけてこなかった。


私も、何も言えなかった。


金曜の午後、ヘリンの家を出たあとから、


ずっと何かが胸に引っかかっていた。


それが何なのか、まだ言葉にできない。


昼休み、スマホを見るとミンジからメッセージが来ていた。

📧
ミンジ
ミンジ
今週、どこか時間ある?

文面はいつもと変わらない、


落ち着いた口調だった。


だけど、そのタイミングで来るそれが、


どうしようもなく重たく感じられた。


返そうと思った指が止まる。


金曜日、ヘリンとしたこと


いや、しそうになったことが、頭をよぎる。


私はあの時、何を考えてた?


断った。けど、それって“誰かのため”じゃなかった。


自分が、今の自分に自信がなかっただけだ。

(なまえ)
あなた
、、

メッセージの通知を下にスライドして、スマホを伏せた


夜。


ミンジからのメッセージにはまだ既読をつけていない。


通知のバッジはそこにあるのに、


その向こうにある“ちゃんとした返事”が、


見つからない。





火曜日の放課後、


教室に残っていたのは私とヘインだけだった。


クラスの何人かは図書室に行き、


あとは部活に流れていった。


ヘインは教科書を開いたまま、私のほうを見ていた。

ヘイン
ヘイン
ねえ、ちょっとだけいい?
(なまえ)
あなた
なに?
ヘイン
ヘイン
さいきんどうしたの?なんかあった?
(なまえ)
あなた
なんで
ヘイン
ヘイン
なんとなく


ヘインには、話してみようとおもった。


(なまえ)
あなた
実は、
(なまえ)
あなた
この前ヘリンの家行った。
ヘイン
ヘイン
え、それって
ヘイン
ヘイン
ヘリンとえっちしたの?
(なまえ)
あなた
してない。
(なまえ)
あなた
途中まで
ヘイン
ヘイン
やっぱヘリンが好きなの?
(なまえ)
あなた
そう言われると、わかんなくて、しなかった。
ヘイン
ヘイン
思わせぶりはだめだよ
(なまえ)
あなた
ヘリンはそうゆうことされても好きとか言ってくる
ヘイン
ヘイン
だとしてもさあ
(なまえ)
あなた
そうだよね
ヘイン
ヘイン
あなた、あそびすぎちゃだめだよ?
(なまえ)
あなた
気をつける



(なまえ)
あなた
最近、誰かに会うたびに“ちゃんとしなきゃ”って思ってる気がして
ヘイン
ヘイン
誰の前で?
(なまえ)
あなた
みんな?
ヘイン
ヘイン
ミンジの前も?

言葉が止まった。


そう聞かれた瞬間、胸の奥にざらっとしたものが走った

(なまえ)
あなた
わかんない


ヘインは何も言わずに、


ただノートを閉じて私の隣に移動した。


そのまま、肩が軽くふれる距離に腰を下ろす。


ヘイン
ヘイン
あなたってさ、誰かのことを好きになるとき、自分のこと好きでいられてる?
(なまえ)
あなた
え?
ヘイン
ヘイン
いや、なんか……そういうときって、ちょっと自分に自信なくなったりしない?
(なまえ)
あなた
あるかも、
ヘイン
ヘイン
そっか。じゃあ、今のあなたは、自分のことどう思ってる?

答えられなかった。


でも、少し泣きそうになった。


ヘイン
ヘイン
ねえ、もしなにも話せない日があっても、私が話しかけるからさ。それがうざかったら、ちょっとだけ静かにして、また隣に座る

ヘインの言葉は、


そうやって静かに寄り添うものだった。


教室の窓から、夕陽が机をゆっくり染めていく。
(なまえ)
あなた
ありがとう

私は、やっとそれだけを言えた。


ヘリン
ヘリン
ねえ、あなた。……あのときのこと、忘れてないよね?


金曜日の放課後。


下校の準備をしていると、


ヘリンが教室前で待っていた。


その表情は明るいけど、目だけは少し揺れていた。

(なまえ)
あなた
なにが

わかってるけど、そう返してしまった。


ヘリンはすぐに笑ってみせたけど、


ほんの少しだけ寂しそうだった。

ヘリン
ヘリン
うち来た日、私…あなたに言ったよね。好きって。“私の番でいい?”って。……キスもした
(なまえ)
あなた
うん
ヘリン
ヘリン
その、返事はまだ?


返事。その一言が、胸のどこかを冷たくした。

(なまえ)
あなた
考えてる、つもり。
ヘリン
ヘリン
そっか。じゃあ、ちょっとだけ聞いてもいい?
(なまえ)
あなた
なに
ヘリン
ヘリン
今、他に気になる子……いる?


問いが直球すぎて、息が詰まる。


だけど、それでも私は答えなかった。

ヘリン
ヘリン
あなたってほんとずるい。


ヘリンはそう言って笑ったけど、


その声には棘がなかった。


ただ、期待も諦めも、ぜんぶ背負っている感じだった。

ヘリン
ヘリン
でももうちょっと待つね
(なまえ)
あなた
ごめん

私がそう言ったとき、


彼女はふっと小さく首を横に振った。
ヘリン
ヘリン
謝らないでよ。まだ、嫌いになったわけじゃないし

月曜の夕方。


校門を出てから、どこに向かうでもなく歩いていた。


ミンジのこと、ヘリンのこと、


どれも、自分の気持ちの中心には届いていない。


言葉がないわけじゃない。


ただ、言っても、足りない気がしてた。


そんなとき、LINEの通知が鳴る。

📧
晴人
晴人
今日ってどっか行くの?
(なまえ)
あなた
ううん、特にない
晴人
晴人
じゃ、渋谷寄らん?
(なまえ)
あなた
いいよ

考えるより先に、指が動いていた。


ヘインに言われた言葉が頭をよぎる。



19時前、渋谷の駅前。


制服姿のまま、待ち合わせの人混みに立っていた。


晴人
晴人
よっ、
(なまえ)
あなた
お疲れ
晴人
晴人
歩こっか
(なまえ)
あなた
うん

明確な目的地もなく、でもどこかに行きたくて歩く。


駅ビルの明かりと、知らない人たちの声が重なる。


その中で、晴人の横顔を見ていた。


彼は私の気持ちを探ろうとはしなかった。


ただ、隣にいることを当たり前のようにしてくれた。


そして、その“優しさ”に、私は少しずつ足元を取られていく。



晴人
晴人
ホテルでも、いく、?



入ったのは、はずれにあるビジネスホテルだった。


カラオケでもゲーセンでもなく、


最初からそうするつもりだったんだと思う。



部屋に入ったとたん、


晴人がバッグを置いてこっちを見た。


晴人
晴人
ほんとに、いいの?
(なまえ)
あなた
うん、


答える前に、彼の腕が私を抱いた。


その温度に、私は少しだけ目を閉じた。




行為のあと、静かな部屋。


シーツの感触と、少し汗ばむ空気。


晴人は眠ったように呼吸をしていたけど、


私は眠れなかった。


📧
ミンジ
ミンジ
会いたい。


一気に息が詰まる。


ベッドの中、目を閉じる。


けれど、さっきまでの温度が、もう“ぬくもり”には感じられなかった。

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