ようやく、中間テストが終わり、
勉強漬けの毎日から解放だ。
今日は午後放課の日、
午前授業の日は、空気が少しだけ浮ついている。
放課後というよりは、“午後”の顔をして、廊下にも光がよく入る。
着替えて帰ろうとロッカーに向かっていた時、
ヘリンに呼び止められた
スカートの裾を少し整えながら、
ヘリンは視線をそらして言った。
そう言った彼女の声は、いつもより小さかった。
でも、私は断れなかった。
私が断れないこと、知ってるくせに。
ヘリンの部屋は、
思っていたよりも“かわいらしく”なかった。
整理整頓されていて、香水とスキンケアの匂いが少しだけ残っていた。
笑いながらグラスを渡してくるヘリンは、
なんだかいつもより近かった。
私は言葉を返せずに、視線を逸らした。
だけどヘリンは、それを見逃さなかった。
まっすぐとした彼女の目が綺麗で、
吸い込まれていきそうだった。
彼女は、そっとわたしの手に触れてきた。
指先は少し冷たくて、でもどこか熱を持っていた。
わたしは、その手を振り払えなかった。
それどころか、受け止めた。
目を閉じたヘリンにそっと近づいた、
静かだった部屋が、
熱くなってゆく。
ここで、ヘリンとしたら、
ミンジとは、どうなるんだろう。
私のスマホの通知が鳴った。
ミンジからだ、
📧
ただ、それだけ。
でも、それが、口実。みたいな、気がした
って言うしかなかった。
帰り道にしては考えることが多いような気もした。
月曜日。
週の始まりなのに、体の奥が重い。
朝、教室に入っても、
ヘインが何かを感じ取ったのか声をかけてこなかった。
私も、何も言えなかった。
金曜の午後、ヘリンの家を出たあとから、
ずっと何かが胸に引っかかっていた。
それが何なのか、まだ言葉にできない。
昼休み、スマホを見るとミンジからメッセージが来ていた。
📧
文面はいつもと変わらない、
落ち着いた口調だった。
だけど、そのタイミングで来るそれが、
どうしようもなく重たく感じられた。
返そうと思った指が止まる。
金曜日、ヘリンとしたこと
いや、しそうになったことが、頭をよぎる。
私はあの時、何を考えてた?
断った。けど、それって“誰かのため”じゃなかった。
自分が、今の自分に自信がなかっただけだ。
メッセージの通知を下にスライドして、スマホを伏せた
夜。
ミンジからのメッセージにはまだ既読をつけていない。
通知のバッジはそこにあるのに、
その向こうにある“ちゃんとした返事”が、
見つからない。
火曜日の放課後、
教室に残っていたのは私とヘインだけだった。
クラスの何人かは図書室に行き、
あとは部活に流れていった。
ヘインは教科書を開いたまま、私のほうを見ていた。
ヘインには、話してみようとおもった。
言葉が止まった。
そう聞かれた瞬間、胸の奥にざらっとしたものが走った
ヘインは何も言わずに、
ただノートを閉じて私の隣に移動した。
そのまま、肩が軽くふれる距離に腰を下ろす。
答えられなかった。
でも、少し泣きそうになった。
ヘインの言葉は、
そうやって静かに寄り添うものだった。
教室の窓から、夕陽が机をゆっくり染めていく。
私は、やっとそれだけを言えた。
金曜日の放課後。
下校の準備をしていると、
ヘリンが教室前で待っていた。
その表情は明るいけど、目だけは少し揺れていた。
わかってるけど、そう返してしまった。
ヘリンはすぐに笑ってみせたけど、
ほんの少しだけ寂しそうだった。
返事。その一言が、胸のどこかを冷たくした。
問いが直球すぎて、息が詰まる。
だけど、それでも私は答えなかった。
ヘリンはそう言って笑ったけど、
その声には棘がなかった。
ただ、期待も諦めも、ぜんぶ背負っている感じだった。
私がそう言ったとき、
彼女はふっと小さく首を横に振った。
月曜の夕方。
校門を出てから、どこに向かうでもなく歩いていた。
ミンジのこと、ヘリンのこと、
どれも、自分の気持ちの中心には届いていない。
言葉がないわけじゃない。
ただ、言っても、足りない気がしてた。
そんなとき、LINEの通知が鳴る。
📧
考えるより先に、指が動いていた。
ヘインに言われた言葉が頭をよぎる。
19時前、渋谷の駅前。
制服姿のまま、待ち合わせの人混みに立っていた。
明確な目的地もなく、でもどこかに行きたくて歩く。
駅ビルの明かりと、知らない人たちの声が重なる。
その中で、晴人の横顔を見ていた。
彼は私の気持ちを探ろうとはしなかった。
ただ、隣にいることを当たり前のようにしてくれた。
そして、その“優しさ”に、私は少しずつ足元を取られていく。
入ったのは、はずれにあるビジネスホテルだった。
カラオケでもゲーセンでもなく、
最初からそうするつもりだったんだと思う。
部屋に入ったとたん、
晴人がバッグを置いてこっちを見た。
答える前に、彼の腕が私を抱いた。
その温度に、私は少しだけ目を閉じた。
行為のあと、静かな部屋。
シーツの感触と、少し汗ばむ空気。
晴人は眠ったように呼吸をしていたけど、
私は眠れなかった。
📧
一気に息が詰まる。
ベッドの中、目を閉じる。
けれど、さっきまでの温度が、もう“ぬくもり”には感じられなかった。

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!