第10話

kzm 貴方しか居ないから
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2024/08/07 07:32 更新

久住 × 記憶喪失の女の子(あなたの名字あなた)















あなたside











私には貴方以外の思い出が無い。


親の記憶も、友人との記憶も。何もかも思い出せなかった











『はっ、はぁ、はぁ、』









貴方と初めて出会った時は雨が降っていた


雨がしきりに降り続く中私は誰かに追われている訳もなく、

ただただ、何もかも分からない私自身が怖くて必死に走っていた










「…ちょお待ち待ち!君や君!めちゃくちゃ濡れてんで?」



『…だれ、だれ、?』



「はぁ?頭おかしくなってるんか。
おーい聞こえてる?俺の事見えとるんこれ」



『助けて、ひとりにしないで、』



「あちゃー死んだ?いや、生きとるか
これってあれなん?救急車とか呼ばんとあかん感じ?

おっ意外と綺麗な顔しとるやーん。持ち帰ったろ〜」











あの日。路地裏で出会った貴方を見た時

綺麗な顔をしていると思った。彫刻刀のように綺麗な顔。

美術館に飾られてたらきっと人気出るよ

と軽口を叩けば鼻で笑われてデコピンされたっけな










私は気づけば、知らない天井、知らない部ベッドの上に寝かされていた


頭がズキズキと痛むけど、今はそれどころじゃない

ここがどこなのか。私は誰なのか。知りたいことがたくさんある





ノソノソと起き上がればリビングのソファに上半身裸の、さっきの綺麗な人がいた








『…あの、?』



「おー!起きたんかぁ
ほれ薬飲みー?これあんたのバッグに入ってた薬やけど、脳が少しおかしいんやね。記憶障害っちゅうやつやろ」



『あ、そっか、記憶障害。
すみません、ご迷惑をお掛けしまして』



「これからどうするん?行くところあるん?」



『…ない、です。とりあえずこの薬を貰った病院に行ってみようと思います。』



「んーーー俺の飼い猫にならん?」



『はい?』



「俺は衣食住を用意したげる。お金だって必要だったらあげる。」



『…貴方はずっと私の傍にいてくれますか?』



「ふっ、そんなん容易い御用やーん!かわえぇなぁ!病院行く前にお風呂入ってきぃ?全身濡れて気持ち悪いやろ」



『あ、えっと』



「なんだったら一緒に入ったろか?」



『えっ、あー、はい。お願いします』



「えっまじ?冗談のつもりで言ったんやけど」



『あ、冗談?そうですか、そうですよね、すみません』



「いーや気が変わった。お風呂一緒に入ろ。ここ広いから入れるやろ」










誰かと一緒にお風呂に入ることが初めてだったかもしれない、

前の記憶が無いから分かんないけど。



それでもこのまま一緒にお風呂に入らなかったら

私が居ない隙にこのお兄さんがいなくなると思ったらから






裸を見られるのも、見るのも。

全部初めて過ぎて頭がこんがらがったけど
お兄さんは私の嫌がることは決してしなかったし

お兄さんに触られるのは何故かいやじゃなかった



髪の洗うのはシャンプーだということ、その後につけるのはリンスーだということ、

体を洗うのは髪とはまた違う液体だってこともこの人に教えて貰って


お兄さんによって私の知識が増えていった








浴槽の中で2人で同じの方向を向いて座れば
お兄さんの両足の間に座らされる













「なぁあんた明日からどうするん?病院行ったらどうなるん?記憶戻る?」



『んー、どうでしょう。携帯もないし、あ、後で財布の中確認しないと』



「どんくらいならわかるん?自分の名前とかは?」



『んーと太陽とかお風呂とか、この状況は恋人同士がするものとか、そういう常識っていいんですかね。そういうのは大抵分かります
けど自分の名前も住所も職場もなにも分かりません』



「へぇ〜その割には落ち着いてるんやな」



『なんか、お兄さんが居てくれるから、?』



「嬉しい事言うてくれるやんかー
俺が大悪党だったらどうするん?」



『あ、それなら全然。サクッと殺っちゃってください』



「んふ、面白い子やなー
あ、こういう子死にたがりっていうんやっけ?
死んだら良くないでー何にも残らへんよ」



『でも今もなにも持ってないですしね』



「確かに。なら死ぬ時は一緒に死んだるわ」



『あ、いやお兄さんは生きててくださいよ?多分お兄さん顔がカッコイイからモデルとか俳優とか、美術館とかに飾られそうですし』



「何言うとるんアホか」



『いだっ』










お風呂からあがって
お兄さんの服を適当に着させてもらった


下着は明日新しいのが通販で届くらしい



私が髪の毛を乾かしてるうちにお兄さんが出前を頼んでくれて
リビングに戻れば美味しそうな匂いがする牛丼が並んでいた









『おいしそー』



「ほらこっち来ー。あっ髪の毛まだ濡れてるとこあるわ。ちゃんと乾かさんと髪傷むで」



『髪長いの邪魔です。お兄さん髪切ってよ』



「俺が切ったらワカメちゃんみたいになるで?
今度金渡したるから美容室行ってき」



『お兄さんも一緒に来てくれる?』



「んー、まぁ仕事が無かったらな。あったら1人で行けよ」



『道わかんないもん』



「Googleせんせーに聞けや。そんな可愛く言っても無駄やで。俺そんな暇やないぞ」



『んぇーーー、知らない人いっぱいじゃないですか』



「俺だって知らん人やろ」



『お兄さんはお風呂入れさせてくれて、牛丼食べさせてくれるお兄さん』



「そんなんみんなしてくれるって。
まぁしゃーないから明日の病院はついてったる。行く途中で記憶飛んだら元も子もないしな」



『やっぱりお兄さんは優しいね。ありがとうございます』



「ん。お礼を言えるっちゅうことは良いことや。」



『お兄さんの名前教えて?』



「んーーーどないしたろなぁ。
まぁ普通に久住ーやら久住くんーやらでいいよ」



『くずみ?んじゃあー久住くんやな』



「こら俺の真似せんの」











そう言って私の頭を撫でる久住くんは

今でも悪者には思えない。


優しい顔で微笑む久住くんが私はとても大好きだった










私と久住くんとの歪な共同生活も大分慣れてきた


私は病院に行って自分の病状と、自分の名前、年齢しか分からなかった

私の名前はあなたの名字あなた。

年齢は23歳


それだけ。住所も登録されてなければ、仕事場も分からなかった











久住「あなたちゃん帰ったでー」



『んわっ、久住くん!久しぶり〜』



久住「んー、えぇ匂いするわぁー。今日はカレー?」



『カレー!スーパーでひき肉安いからいっぱい入れちゃった』



久住「ほーんま可愛いな」



『おわっ、、久住くん疲れてる。ご飯は後にしてお風呂行く?』



久住「ん、一緒に入ろ」



『えっちなことすんのダメね』



久住「それは頷けへんなぁー」



『すけべめ』



久住「男の子はみんな変態なんですー」









週に3回帰ってきたら良い方で

私は何不自由なく暮らしていた


長かった髪の毛も肩上までバッサリ切って
久住くんが買ってきてくれた洋服を身にまとった













『あ、久住くん?来るなら連絡入れてよー
スーパー行ってきたんだけどさー

……久住くん、?怖い顔して、どうしたの?何かあった?』



久住「…あなたちゃん。」



『はい。…………おわっ、おぉ、どうした?』










ソファに座って、なにやらパソコンで何かを操作していた久住くんが立ち上がる

そのまま私の元へくればギューッと抱きしめられた











久住「みんな。居なくなればいいのに。
俺とあなたちゃんだけ、それでいい。」



『久住くん、嫌なことあった?』



久住「俺はなクズを見捨てるでクズミ。
あなたちゃんが思う程良い奴じゃないし真逆の事してる」



『久住くん。私には久住くんしか居ないよ。』



久住「ん。俺もや」









死ぬまで一緒に居よな




そんなことを呟いた後。私を抱きしめながら寝てしまった久住くんをゆっくり動かして毛布をかけた








久住くんが何か悪いことをしてるのは知ってた

それでも。それを知ってても久住くんに対する気持ちはなにも変わらなかった





記憶は相変わらずだけど。久住くんが居ればそれでいいって、思ってた。



思ってたのに。












ブーッブーッ




洗濯物を畳んでいると久住くんに買ってもらったスマホがバイブ音を鳴らした



ここ最近、久住くんは帰ってきていない

2週間くらい会えてないから久住くんの声を聞けるだけでも嬉しくて急いで電話に出る









『もしもし久住くん?』



久住「あなたちゃん今すぐパスポートとかキャリーケースに下着と化粧水やらまとめて送る場所に来て」



『え?』



久住「急いで」



『え、あ、ちょっと!久住くん!?』












何か。嫌な予感がぐるぐると心臓辺りを埋め尽くす

久住くんが私の前で関西弁を話さない時は
何か予定が狂った時、緊急の時、心に余裕が無い時のどれかだった。






私は急いで久住くんが買ってくれたキャリーケースに下着とか洋服とか化粧水とか、その他もろもろを詰め込む



スマホに指定された地図が送られてきたので急いで靴を履いて外に出てタクシーを拾った

地名が分からないからマップを運転手さんに見せれば

「あぁ、ここね。」



と承諾してくれた








さっきから心臓が鳴り止まない。

久住くん、無事なんだよね、?








不安が拭いきれない中

私はただタクシーに乗せられながら窓の外をぼーっと眺めていた











「ありゃぁー、なんか通行止め食らっちゃってるわァ。ぎょうさん警察官いるからなんかあったんですかね」









と運転手さんが言うから
私は吐きそうなくらい嫌な予感が最高調達点へと達した


お金を渡してその場で降ろしてもらう


キャリーケースを引きずりながら、なにやら派手な車が止まってある車の所へと移動した










…移動。しなければ良かった。



私はまたスイッチを間違えたんだ。










楽水橋には2人の人が居て、
1人は青いワイシャツを着ている身長の高い人

もう1人はMIUとかかれているジャンバーを羽織って中にはI ♡ JAPAN とかかれているTシャツを着ている









「おい!久住!!!」



『っ、、』



「…志摩さん一般人が居ます」



「今はそれどころじゃない!!久住を逃がすな伊吹!!!」



『あっ、警察、?』











2人が橋の下を見下ろしていたから
私も急いで身を乗り出した



船の上には
会いたくて会いたくて仕方がなかった久住くんと

橋の上にいる人と同じような洋服を着ている人が仁王立ちで立っていた











『くっ、久住くん、』



久住「後ろ、危ないんとちゃう?」



「あ?」



久住「来とるよなぁ橋!」



「おい!久住避けろ!!」



『はっ、久住くん!!!!』









何を、してるの、?

早くしないと橋にぶつかるよ。



久住くんは気づいているのに、避けない。わざと怪我しようとしてるってこと?

訳わかんないよ、









久住くんが振り向いた瞬間
橋とおでこがぶつかり、皮膚と金属がぶつかり合う音が響いた





久住くんはそのまま倒れて額からは血が大量に出ている









『久住、久住くん!ね、ねぇ!あの人助けてください!』



「久住の知り合いですか?」



「九重!ここ任せた!俺は久住の方に!」



「ちょっと署までご同行お願いできますか?」



『触らんで!!はっ、はぁっ、久住くん、久住くん!!』










私はいつの間にか泣きべそをかいて青いワイシャツの人を突き飛ばしていた


後ろから聞こえてくる警察官の声を無視して無我夢中で走った









もう、どうでもいい。
何もかもどうでもいいから。

ただ、久住くんが生きていれば、それでいい。













くるくるパーマのMIUの人の後を追い
私も船へと飛び乗る。







「はっ、はぁ!?なんでいるんだよ!!おい九重!」



『うるさいっ!久住くんは!?』



「ありゃ?なに、お前の彼女?仲間?」



久住「…あー、、、知らん人。」



『く、ずみ、くん、?』



久住「ふっ、ぶっさいくな顔やなぁ。可愛い顔が台無しやで」



『怪我、怪我してる、』



久住「こんくらいの怪我じゃ死なんわ。
来んな来んな。あんたなんてお仲間でもそれ以上の関係でも何もあらへん。知らん人やろ」



『…嘘つき。ひとりにしないって言ったくせに』



久住「…」



「伊吹。」



「おうよー。
んーと、とりあえず署まで来て貰える?お話したいからさ!」



『久住くん、連れてかないで、久住くん!!』



「落ち着いて落ち着いて!深呼吸しよ!」



『はっ、はぁっ、は、行かないで、』











久住くん、こっちを向いて。

ねぇ、背中さすってよ、



いつも、してくれてたのに。








泣き叫ぶ私は久住くんは見向きもせずに、ただぼーっと船の向こうを眺めていた










久住くんが警察の人に手錠をかけられ、そのまま船から降りていった





警察車両に乗り込む時に

一瞬だけ、久住くんと目が合った気がした。
その表情は悲しそうで、泣きそうな、そんな顔をしていた。

私がそう捉えたいだけかもしれないけど。









それからの流れは、淡々としすぎていて逆に気持ちが悪かった




私は嘘をつくことなく久住くんのことを全て話した

自分の病気のことも、家で養ってくれていたことも。


警察の人からは何回もドーナツEPがなんちゃらかんちゃらって言われたけど

そんな言葉初めて聞いたし、見たことも無い。




私の住んでいたマンションにも家宅捜索にはいられたけど久住くんに関するものは何にもなし



警察からの事情聴取から逃れたのは
久住くんが逮捕されてから3日が過ぎた頃だった







私は、これからどうやって生きていけばいいのだろうか。

久住くんが居ない、この世界で。

私が一体誰で、何者かも分からないのに。


















伊吹「名前は?本当の名前」



久住「俺は久住、ゴミ、トラッシュ、バスラー、スレイキー、」



志摩「どこで育った」



久住「何がいい。不幸な生い立ち?歪んだ幼少期の思い出。いじめにあった過去。

ん?どれがいい?

俺は、、、お前達の物語にはならない。」



志摩「お前とあの子の関係は」



久住「………あの子はな。
俺が居ないと生きていけへんのよ。
…だから、ちゃんと3食食べさせて、俺が居なくても生きてけるようにしろ。

俺の事を忘れさせてもいい。それでもいい。
だから絶対。あの子を死なせんなよ」













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