眉を寄せながら言われたことを叫び返したシグマに、ゴーゴリはにっこりと微笑みながら返す。あなたはため息に近い吐息を出しながら欠伸した。
一般人を自身の作戦に巻き込むテロリストと、それを乗り気で受ける一般人グレーゾーンの女。
頭のネジが外れていないというなら、運命のネジが外れているとしかいいようがない構図である。
ってことで準備してくるーとニコライは何処かへ転移してしまった。相変わらず一方通行だ。まさに会話のドッヂボールを体現したような男である。
まあ、そんな円滑剤ニコライのお陰で会話が途切れていなかったことも事実。
ニコライが消えた事であまり話せない(互いに話しにくい)二人だけが残され、気まずく痛い沈黙に包まれたのは言うまでもない。
俯いて黙っていたシグマがあなたに話しかけた。
あなたは地面に座ったままのシグマを真顔で見下しながら返した。シグマはそのまま耐えきれなくなった様にまた俯いた。その隣にあなたが座る。
これ、とあなたが見せたものを見てシグマは目を見開いた。それは客のコードや性質が書かれた数枚の資料だった。所々破れたり焼けたりしているのを見るに、先程シグマが戦っていた通信室か、支配人室から落ちたものだろう。
相槌を忘れるシグマから紙を取って少し見た。手書きで客の持病や軽い悩みなどの、当たり障りはないが、丁度よく必要な情報が書いてある。
あなたとシグマはそれぞれ受け取った。二人とも受け取っては一気に飲む。あなたは一息に飲み干していた。シグマはそれを見て怪訝な顔をする。ニコライは豪快だねえと気ままに笑っていた。
そう言って後ろにバターンと倒れるあなたの背中を慌てて支えたシグマはニコライを見る。ニコライはひゅーと口笛を吹いて歩き出した。
あなたを落としかけたシグマからあなたを受け取って外套の中に入れる。そしてまたニコライは歩き出した。
ぜー、と息をしたシグマにペットボトルを差し出す。シグマは礼を言って飲み始めたが、その水を半分少し飲んだところで止まった。
そう言ったシグマの視界が急速に霞んでいく。音も遠くなり、何やら話しているニコライに被って、あなたが思い浮かんだ。
それに貴方、これから4、5日一緒に過ごす人間が自分に危害を加えそうだったら意地でも寝ないでしょ
言い切れずに倒れたシグマをニコライは颯爽と抱えて何処かへいってしまった。
《5日後》
欧州異能刑務所ムルソーにて
そう云いながら肩や腕などをもんで身体をほぐすあなたにニコライも外套を正す。シグマは困った様に口を開いた。
かちん!といった音があなたの耳に聞こえた気がした。シグマはニコライに殴りかかる。ニコライは異能ででシグマの手を宙に接続させて反応を楽しんでいた。
まあそうなのか?
と納得し掛けたシグマだが不可解な点を指摘した。
疑いと怯えの目を向けるシグマににこりと笑いを返して自分の口元に手を当てた。
5日前
シャワーを浴びていると誰かが入っているのに気がついた。
刹那二人は消えてしまった。
恐らく誰か空間移転系か瞬間移動系の異能者がいたんだろう。
また、三人とも監視カメラが映らない死角に立っていた。これは今虎少年が持っていた通信機器で繋がっている奴が指示したものだろう…目視無しでは出来まい。そして早く逃げた方がいいと言ったのが本当に太宰だとすると今絶賛捕まっている太宰は、刑務所からそれを言ったことになる。でもそれを指摘するには先ず私が此処にいることを知らなければならない。しかし、通信機を持っていた方は何も報告していなかったし、太宰が捕まったと報道された時、まだ私はカジノにいなかった。
知り得る手段といえば…牢屋で天人五衰の内通者とでも繋がっているのか?
いや、それはあり得ない。
それなら可能性はただ一つ。
今、捕まっていて自由に太宰と話せる奴…
何か嫌な記憶を掘り起こしたかの様に、ふう、と息を吐いた。
うはは、と乾いた顔で笑ったあなたに、シグマは警戒していた様な表情を僅かに解いた。ニコライはそれを見て手を打ち合わせる。
外套に乗り込め〜とばかりにニコライは自身の外套にあなたとシグマを入れようと外套を掲げる。あなたから見た其れは、まるで演劇前に掛かるオペラカーテンの様だった。視界を覆っていくそれを空虚な碧眼で見つめる。
視界が暗転した。
…____刑務所での決闘が、もう直ぐ始まる。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!