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第1話

あの日
72
2023/05/12 13:41


















ぽつぽつ雨が降る中、リベルはある貴族に見つかった。


馬車から降りた貴族は、大勢の人を連れている。

スラムのような、荒れた街に貴族がいるのはすごく目立つ。




貴族の一人は傘を片手に、リベルの前に来た。

リベルは何をされるのかと思い、

諦めの表情を見せた。



「可愛いね……君は」



スラムのゴミ溜めに倒れてるリベルを、

貴族のこの人は、リベルの頬を撫でた。


貴族は触る所か、この街に入ることさえ嫌う。



撫でられると思わなかったリベル。


近付いてきた手が怖く、

反射的にリベルは目を瞑った。

リベル
…?

状況が飲み込めないリベル。

傘を差し出して、リベルの手首を握ったこの人は

リベルをわずかな恐怖と支配を植え付けた。



「君はこれから………」

ボロボロのリベルは、

その場で気絶した。



おかしく、狂気的な生活が始まるとも知らずに。














リベル
…朝
懐かしい夢を見ていた。


ぼくが貴族に拾われた時の夢。


リベル
…雨だ
外はあの日と同じ雨。

リベルは貰った服を着替えながら、

窓から外を見つめた。


窓からは街が見える。

栄えてる街で、自分が住んでいた街とは大違いだとリベルはよく思う。


綺麗で、生活必需品とやらが完璧に整っている部屋。





リベル


今は…そこそこ良い生活が出来てる。

スラムに捨てられてたリベルを貴族は拾った。

あの日の事はよく思い出せない。

死にかけていたリベルを拾った貴族の名前さえ知らない。



時計を見るともうすぐで朝食の時間だ。

それに気づいたリベルは少し急ぎで、

この屋敷に住んでる貴族の、

「レイベル」の元へ向かった。








レイベル
ふふっ、おはようリベル
リベル
おはようございます…レイベル様

リベルはレイベルに気に入られたのか、

レイベルと毎朝食事を共にする。



最初は屋敷の従者と共に朝食を食べていたが、

レイベルは何故か共に食べたいと言い出したのだ。


リベルはそれから毎朝共に朝食を摂ることになった。



リベル

今日もすごいと思いながら、

リベルはレイベルの朝食を見つめた。


信じられないような食べ物が、レイベルの前に並べられている。




レイベル


何で出来たかもわからない食事が並べられてる。

何度も見てきた料理、最初リベルはとても驚いた。


スープからする悪臭、

見たことのあるモノ。



それに気づいたレイベルは、


リベルに気を遣って、食事を少し変えた。


匂いも見た目も、人間達の「食事」に似せた物…


でも、それでも少し気分が悪くなるリベル。


何日も共に食事をしてると慣れてくるけど、


さすがに数日間はきついものがあった。

でもさすがに断るわけにもいかない、

リベルは我慢しながら毎日椅子に座る。



これから、もっと大変な仕事がある、

そう言い聞かせながらリベルは自分の食事を見た。










レイベル
美味しい?

リベル
あ、はい…美味しいです


何だかいつも緊張してしまうリベル

それをいつも勘づいて気を遣うレイベル。


傲慢な貴族が沢山いる中、

レイベルは人に気を遣ったり出来る。

周りからすれば比較的優しい方なのだ。







レイベル
美味しいなら良かったよ
リベル
…はい


わずかな会話を終えると口にそのなにかをレイベルは運んだ。


黙々と食べ進めるレイベルとリベル。







朝の仕事、それは簡単だ。


食事をレイベルと共に食べること、それだけだ。







リベル
…ふぅ


朝食が終わったら、


リベルは屋敷の庭を掃除する。



広い庭。


何個かガゼボがあるような、広い庭だ。


一人ですべて掃除するのは難しい…だから、

何人かで昼前に掃除してしまう。


お昼終わりの、日差しが気持ちいい午後に

レイベルはよく庭に来るのだ。

だから少しでも綺麗にしておかないといけない。








リベル

リベルの仕事は従者と違い比較的少ない。


でもぼーっとしている事を、リベルは嫌う。

何もしずに他の従者さんがせっせっと働いてるのを見ると、

リベルは何もしてない自分に嫌悪してしまう。


リベルにとってこれは従者のためじゃなくて、

自分自身のためなのだ。


それを手伝うことで嫌悪をなくしている。






ドロシー
よし…これくらいでいいわね……
ドロシー
リベル、手伝ってくれてありがとう
リベル
こちらこそ、いつも色々ありがとう


従者のドロシーは、リベルに良くしている。


ドロシーと仲良くなったことで少しずつ、

ドロシー以外の従者と親しくなっていったのだ。
  

そうやって誰かと親しくなる機会をくれたのが、

ドロシーのような物だから、

リベルはドロシーによく感謝をしている。




ドロシー
…今日も、レイベル様の元へ行くのよね…?
リベル
うん、夕方ぐらいに…
ドロシー
…そう
気の毒そうな顔で、ドロシーはうつむいた。

リベルはそれが嫌で、どうにかしたかった。


でも、どうしたらいいのかわからなかった。

リベル
ドロシー
本当に…ごめんね。代わってあげれれば…
リベル
いや…そんなこと…
リベル
…この役目はぼくだけでいいし…
リベル
役目を全うできなきゃ、ここにいれない
ドロシー
リベル…
ドロシー
また何かあれば………手当てをするから、
いつでも私の部屋にきてね
リベル
うん、ありがとう

リベルはそう言いながら、微笑むだけだった。
















暗い部屋、リベルは椅子に座った。


茶色の少し古い、傷がついてる椅子。
レイベル
レイベル
っ……遅い遅い遅い………!
レイベル
いつも…
リベル
………


レイベルはリベルの首を絞めた。


レイベル
君は僕の人形なのにっ!!!

無機物のように、リベルは表情を変えない。


リベルは夕方、この部屋に絶対に行かなければならない。


夕方、部屋に入った時…いや

あの貴族になった時からリベルはこの人の

ストレス発散のための人形になるのは確定していたのだ。



リベル

レイベルはリベルの目の前で、呻き、泣き声をあげる。

異様な光景の中に容赦なく差し込む夕日。


レイベルは、とてもストレスが貯まってるらしい。

ひどい時、リベルは骨を折られたりする。


痛みに表情を変えられない苦痛。

痛みを耐える為に口の色んな所を噛むうちに、

リベル口の中はいつの間にか傷だらけになっていた。


でも耐えないと、今の豪華な生活を続けられない、

そう心に叫びながらリベルは痛みを我慢した。



レイベル
どうせ皆ぼくを受け入れないするっ!!
意見なんて聞きやしないっ!!!


リベル
あがっ………!!


あ……と、そんな事を思考した。




レイベル
……あ…………



声を出したその瞬間、レイベルは顔色が変わった。


焦るような顔で、リベルを赤い瞳で見つめた。




レイベル
リベル…リベルっ………


レイベルはぼくに気づいたように、

泣きながらリベルを抱き締めた。





リベル
…大丈夫ですよ
レイベル
…っ……どうしてっ…なんで…………
また………どうして…



レイベルは、夕方になると…


爆発したように、物を傷つけたり、

自傷したりしてしまうのだ。

リベルが聞いた話しによると、

大きなストレスが夕方に自我を蝕むらしい。


そのストレスを少しでも和らげるために、

発散道具に選ばれたのがリベルだった。






目の前がよく見えなくなったように、

レイベルから見て無機物であろう物を壊そうとする。


でも無機物だけなのだ。


リベルが声を出すと、レイベルは自我が戻る。

無機物じゃないことがわかるからだ。




レイベルはリベルを大事にしているからか、

声を聞くとすぐに自我が戻ってきてしまう。



レイベル
っ…ごめんね……ごめんね
リベル
…レイベル様、服に血がついちゃいます
離れてください
リベルは傷ついて、

血を沢山出して、ひっかかれて

殴られて、罵倒されて

心で泣き叫ばないと、屋敷で豪華な生活ができない。


楽な生活を夢見ていたリベルにとって、

耐えるのは生きる手段なのだ。







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