琉斗のリズム
ゆきだるまファミリー
琉斗は、朝がちょっと苦手だ。
目覚ましが鳴っても、布団の中でぼーっとしている時間が長い。
けれど、それは眠いからじゃない。
彼の頭の中では、朝からもう“世界の音”が全部聞こえているのだ。
鳥の声、電子レンジの音、冷蔵庫のモーターの振動、
妹・奈々姫の笑い声、ママのスリッパの音。
全部が一度に押し寄せてくる。
「うるさい」と言いたいわけじゃない。
ただ、音の波に呑まれて、自分の位置が少し分からなくなる。
それが琉斗の朝の始まり。
ADHDという名前
「りゅうとくんはね、脳の中で“音”や“考え”がすごく速く走ってるの」
ある日、病院で先生が言った。
「だから、ちょっと集中しにくかったり、
気になることがいっぱい見えちゃうんだね。」
ママはその時、少し泣いた。
でも琉斗は、首をかしげて言った。
先生は笑って首を振った。
「ううん。むしろ、世界の音がよく聞こえる“特別なアンテナ”を持ってるんだよ。」
それが、琉斗のADHDの説明だった。
琉斗の世界は、いつも少し速い。
ママが話し終える前に次の話を思いついてしまう。
教室では黒板よりも外の風に目がいく。
「集中して」と言われても、彼にとっては“どれを”集中すればいいのか分からない。
でも、そんな琉斗の「速さ」を一番に理解してくれたのが、
“公認お兄ちゃん”たちだった。
世界の速さは何でもないよ君の心さ🎸
初めてMrs. GREEN APPLEの若井滉斗が家に来た日。
琉斗は何も話さなかった。
ただ、部屋の隅で指をトントンと机に当てていた。
若井はその音をじっと聴いて、
その日、若井はギターを出して、
琉斗のトントンのテンポに合わせて弾き始めた。
琉斗は目を見開いて、初めて声を出した。
それから、琉斗は少しずつ話すようになった。
彼にとっての“言葉”は、いつも“音”の中にあるのだ。
ルールじゃなく、ハーモニー🎹
学校では、「落ち着きがない」と言われることもある。
でも藤澤涼架は言う。
藤澤はキーボードで、琉斗の歩くスピードに合わせた音を奏でる。
ポロン、ポロン。
琉斗は笑って、少し駆け出した。
藤澤も笑ってテンポを上げる。
その瞬間、二人のリズムが重なった。
🎤Fukaseの優しい間
Fukaseが来た日、琉斗は最初からリラックスしていた。
なぜかというと、Fukaseの話し方には“間”がある。
ゆっくり、息をするように言葉を置いていく。
その“間”が、琉斗には心地よかった。
Fukaseはメモを取り出し、
琉斗の言葉をそのまま歌詞にした。
“時計の音で踊る僕
君の歌が聞こえる”
琉斗は、はにかんだように笑って言った。
🌿元貴が見つけた“色”
大森元貴は、琉斗を“色の人”と呼ぶ。
ある日、みんなでお絵描きをした。
奈々姫はカラフルな虹、
琉斗はぐるぐると混ざった青とオレンジを描いた。
元貴はその絵を見つめて言った。
琉斗はうれしそうに笑った。
🌙夜のあとがき
寝る前、あなたはそっと琉斗の部屋をのぞく。
彼はイヤホンをつけて、小さな音で音楽を聴いていた。
そのメロディは、あの日お兄ちゃんたちが作った“お兄ちゃんソング”。
あなたは微笑んで、静かに扉を閉めた。
琉斗のADHDは、“困りごと”じゃなく、“リズムの個性”だ。
彼の世界は、少し速くて、少し眩しくて、
そして何よりも――とても美しい音でできている。
🌿概要欄
“公認お兄ちゃん”たちは、
琉斗の「速い世界」を止めようとしない。
ただ隣で、そのリズムにハーモニーを添えるだけ。
それが、彼にとっての「安心」と「自由」。
そして、それを見つめる家族の物語は、
まるでひとつの長い音楽のように続いていく。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。