体をぶった斬るほどの爆風。レゼとは違って弾も風も衝撃も全て自分に向いてくるからその威力は凄まじく。スターターを引いて再生した体は間を置かずに穴を開けられ、それでも降り注ぐ弾丸をチェンソーの刃で弾いていく。いてぇ、でもアキだってきっと痛ぇはずだ。弾き飛ばして瓦礫に転がる弾丸は、探っていた時と形状は変わらない。恐らく、これはアキの肉片でできている。俺のチェンソーが血が必要なように。銃の悪魔が街を撃ち抜くたびにアキの体がすり減っていく。
やめろ、アキがなくなっちまう。アキ、こんなのお前が一番望んじゃいねぇだろ。こんなことやめろ、こんなこと、アキにさせんな。
銃の悪魔は人を狙う。楽しげに笑いながら。
わかっている、あれはもうアキじゃない。銃の魔人だ。アキなんかじゃないんだ、魔人なんだ。殺さなきゃなんねぇだろ。そうだろ。
言い聞かせるように頭の中で反芻する。それでも頭の中はわかってくれない。止めようにも力は叶わないし、銃口の奥のアキの面影に心が上手く働かない。次々に増えていく死体と、広がっていくばかりの血溜まり。自分の覚悟が決まらないばかりに、自分で割り切れないばかりに、アキにこんなことを続けさせてしまっている。
自分が弱いばかりに、アキをずっと苦しめている。
「…、クソ!!!クソったれ!!」
アキを止められるのは俺しかいない。己を叩き直すようにスターターを再度引く。空吹くエンジン。刃が回る振動が強まる。殺したくない、心が叫ぶ。でも、魔人ってしたいに悪魔が乗り移った奴なんだろ。…死んでもまだ縛られるアキを、そのまま見ねぇふりできねぇよ。対峙すれば、銃の魔人は心底嬉しそうに口角を上げて笑う。向けられる銃口。あれは魔人だ、俺はデビルハンターだ。悪魔なら、魔人なら、やらなきゃいけない。それでも片隅で願う。
「…アキに戻れ!!」
頼む、悪い夢であってくれよ。
刃に響く火薬の圧。流石公安の最大の標的なだけある。まともに横殴りに降り注ぐ肉片の嵐は防ぎ切れずに体に穴を穴を開けていく。痛ぇ、死ぬほど痛ぇ、クソ、やっぱり夢じゃない。衝撃はに吹き飛ばされ建物に突っ込む。瓦礫に埋もれる。隙間から差し込む光。終わらない。終わらせるまで終われない。瓦礫を蹴り上げ這い出す。身体中の骨がひしゃげて力を込めると砕けた骨が軋む。切れた傷口から血が吹き出す。止まらない。血が足りない。銃の魔人を駆除しないといけねぇのに。街の人を、…アキを、助けねぇとダメなのに。足を取られ瓦礫に仰向けに滑る。振り絞っても体が動かない。アキ、畜生。クソ、何でこんな、クソ、クソ、クソ
口の中に広がる血の味。若い血、肥えた血、古い血、甘い血、様々に混ざり合う。軋む骨がつながり合う感覚。傷口の痛みが消える。ぼやけた音が鮮明になっていく。
銃の悪魔を、殺してくれ。
スターターを引く。もう考えんの、やめた。
肉を割く感触。血飛沫の熱さ。聞き慣れた、血に溺れたようなアキの声。
終わった、終わらせちまった。手に力が入らない。回復だってしてんのに。心が鉄の球みたいに重い。誰か、誰か助けてくれ。俺を、俺達を。
「……幸せになっちゃ、悪ィってのかよ」
この手に掴みたい。楽して生きれなくたっていい。あれが欲しいとかこれが欲しいとか、そんな贅沢言ってねぇだろ。ただ、普通の生活をしていたかっただけなのに。
「言わなかったかい、未来は君次第だって…♪」
一筋の風が吹く。そういえば、そんなこと言われた。この、優しい掠れたテノールに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!