後日 スタジオの廊下で
あなたは笹木に呼び止められた
その声、いつもの軽さがなく
完全に“気になってる人の呼び方”だった
来た、と思った瞬間 心臓が一段跳ねる
「かなかなと一緒で、子供もおって
あれ、どういう状況なん?」
探るというより 困っている目だった。
噂にする気はないけど 納得できない
─ ─そんな顔
あなたは一瞬だけ視線を落としてから
ゆっくり口を開く
笹木が目を瞬かせる
嘘は言っていない
ただ 真実の一番重い部分を伏せただけ……
その言い方に 笹木は一瞬だけ黙った
「……ふーん」
軽く笑ったけど 納得した笑いじゃない
一歩近づいて、声を落とす
それは忠告で、先輩としての優しさだった
「……気をつけや」
あなたは小さく頷く
笹木はそれ以上踏み込まなかった
けれど――
立ち去る背中は 明らかに
何かを飲み込んだままだった。
その夜 笹木の頭には
あの光景が何度も浮かぶ
叶と並ぶあなた
しかも 自然すぎる距離で
迷いなく手を引かれていた子供
そうして “まだ表に出ていない何か”が
静かに 確実に広がり始める











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!