割れた試験管を片付けながら青年とモンスターと男性の会話が始まり、一人放置される。
私が現れた原因を探っているようだ。
立っていると、男性と目が合う。それと同時に、私の後ろからボンッという音と共に咳き込む声が聞こえた。
時間差でシロさん達が現れ、青白い火の玉のようなものが何個か浮遊しているかと思えば、どこかへと飛んで行ってしまう。一瞬だったが、火の玉のうちの一つは電気でも走っているかのように、バチバチと音を鳴らしていた。
一気にカオスな状況になり、男性が溜息をつきながら「まずは、お前達が何者か教えてもらおう」と私達を見る。
後ろでこそこそと話している三匹を無視し、「私は津雪憐覇と申します。こちらにいる三匹は猿の方から柿助さん、シロさん、ルリオさんです」と自己紹介をする。そして手っ取り早く説明する為、「私達は地獄の住人です」と正直に打ち明けた。
数分前に自分達の方で起こった出来事も加えて話すと、男性が「もしやグリム達が薬品を零したのと、その偶然が重なって……?いや、しかし……」と考え始める。
一見、信じられない話にも聞こえるが、魔法薬の補習や、クルーウェル先生のような変わった方が先生というのも、此処が本当に異世界ならば有り得なくはないなという考えに至った。
クルーウェル先生が一歩後ろへ下がり、私は地獄の門を開ける。私は地獄に居るごく一般の獄卒や雪女とは違い、何故か特殊な個体となっているのでこの力は私にしか使えない。
本来ならば、お迎え課として現世でうろちょろしてる亡者やらをあの世に連れていく際に使う力だ。
少しすると床に穴が広がり、その先は奈落の底。
そこからあの世……地獄へ繋がっている。
この穴から落ちれば地獄だが、正式な裁判を行わない限り地獄行きは確定では無い。なので、亡者達を穴から落とす際は“一時的”に地獄に堕ちると説明するのが正しいだろう。だが、私はそうは言わない。半ば脅し的な意味で「地獄に堕ちましょう」と相手には言っている。
地獄の門は開いたが、バチッと電気が走る。まるで結界でも貼られているかのように、下へと行けない。
柿助さんに聞かれ、先程どこかへ消えてしまった火の玉のうちの一つを思い出す。その火の玉は他の火の玉とは違って電気のようなものが走って居た。
恐らく、あの火の玉を捕まえればこの結界は解かれるだろう。
その事をシロさん達に話すと、「火の玉ー?」と三匹は首を傾げた。
本来、現世に彷徨える魂とは亡者をさす。
そして亡者は人の形をした幽霊となって彷徨っている訳だが……烏頭さんは鬼灯様に機械を見せ、一度使用していると言っていた。
先程見たものが、機械によって吸い取られ、火の玉になった亡者の魂ならば?
取り敢えず地獄の門を閉じて考えると、携帯が鳴る。携帯の電波すら繋がっているわけだし、やはり地獄に帰れない訳では無い。謎の結界を解くまでは。
電話の番号は烏頭さんだが、私は「はい。どちら様でしょうか」と念の為確認する。
烏頭さんに事情を話すと、「マジか!」と声を上げて驚く。烏頭さん曰く、機械に回収された魂は何かしら未練や、願望などの念を持っている。そして、シロさんが押したボタンは魂を吐き出すボタンで、ボタンが押された際に溜まった魂の念が爆発したのだとか。改良中だったこともあり、魂を鎮める機能が上手く起動していなかったらしい。
その魂がつい先程一気に異世界のどっかに消えちまった訳だが……どうしてくれよう。
烏頭さんを問いただすのに夢中になっていたが、静かに待ってくれているクルーウェル先生とデュースさん達を見て、烏頭さんに対し呆れながら小さく溜息をつく。
それだけ言うと、烏頭さんは電話を切る。
……帰ったら書類の分含め、平手打ち百発食らわす。
柿助さんに言われて窓の外を見ると、柿助さんの言う通り日が半分程沈んでいる。これでは探すのにも苦労しそうだ。
クルーウェル先生が話すと、グリムさんやデュースさんが「オンボロ寮……!懐かしいな」と呟く。
シロさんがクルーウェル先生の足元に尻尾を振りながら駆け寄ると、クルーウェル先生は「気にするな」と微笑みながら片足を床につけてしゃがみ
シロさんの頭を撫でた。
デュースさんの事を“仔犬”と言ったり、わざわざ片足をつけてしゃがんだり……微笑みながらシロさんを撫でたり、もしやこの人……犬好きだろうか。
というわけで、私達はデュースさん達と一緒に学校の外へと出ることになった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!