第3話

二話 魂回収
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2022/01/15 17:26
グリム
グリム
というか、オマエ誰なんだゾ!
モンスターか!?
デュース・スペード
デュース・スペード
モンスターはお前だろうグリム
津雪 憐覇
津雪 憐覇
私はモンスターではありません
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
人が現れるとは、お前達は一体どんな魔法薬を作ったんだ。ある意味流石だな(皮肉)
デュース・スペード
デュース・スペード
言われた通りに作ったはずですが……
割れた試験管を片付けながら青年とモンスターと男性の会話が始まり、一人放置される。
私が現れた原因を探っているようだ。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
(というか、シロさん達はいないのでしょうか。私だけですかね?こんな目にあってるの。あの変な機械の爆発のせいもあるんでしょう。きっと)
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
ふむ。確かに、言われた通りの薬草を入れてはいるみたいだな。なら何故……
立っていると、男性と目が合う。それと同時に、私の後ろからボンッという音と共に咳き込む声が聞こえた。
シロ
シロ
けほっけほっ……びっくりしたぁー
柿助
柿助
そりゃあこっちのセリフだ!
ルリオ
ルリオ
お前なぁ、勝手に物を触るなよ
津雪 憐覇
津雪 憐覇
シロさん達……
時間差でシロさん達が現れ、青白い火の玉のようなものが何個か浮遊しているかと思えば、どこかへと飛んで行ってしまう。一瞬だったが、火の玉のうちの一つは電気でも走っているかのように、バチバチと音を鳴らしていた。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
(今の火の玉……)
シロ
シロ
あれ、ここどこ!?誰!?あ、憐覇様!
柿助
柿助
都合のいい記憶喪失みたいになってるぞ
ルリオ
ルリオ
あの、これは一体……って、俺たち普通に喋っちまってるけど大丈夫か
グリム
グリム
犬と猿と鳥が喋ってるんだゾ!?
シロ
シロ
猫が喋ってるぅぅぅう!?
グリム
グリム
オレ様は猫じゃねぇええ!
シロ
シロ
猫じゃないのおおお!?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
……シロさん、私は何処からつっこめばいいですかね
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
俺も何処からつっこめば良いんだろうな
デュース・スペード
デュース・スペード
クルーウェル先生が言葉に詰まってる……!
一気にカオスな状況になり、男性が溜息をつきながら「まずは、お前達が何者か教えてもらおう」と私達を見る。
柿助
柿助
れ、憐覇様……
津雪 憐覇
津雪 憐覇
彼等の会話を聞くに、どうやら魔法が扱えるみたいですね。私達の知っている現世の人間ではないみたいですし、バラしても問題ないでしょう。貴方々が喋ってる所も目撃してますし致し方ありません
ルリオ
ルリオ
申し訳ないです。うちのシロが
シロ
シロ
オレ!?
柿助
柿助
元はと言えば、お前が勝手に変な機械触ったからだろ
後ろでこそこそと話している三匹を無視し、「私は津雪憐覇と申します。こちらにいる三匹は猿の方から柿助さん、シロさん、ルリオさんです」と自己紹介をする。そして手っ取り早く説明する為、「私達は地獄の住人です」と正直に打ち明けた。
デュース・スペード
デュース・スペード
じ、地獄!?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
えぇ。人でないのは確かですが、モンスターでないのも確かです
数分前に自分達の方で起こった出来事も加えて話すと、男性が「もしやグリム達が薬品を零したのと、その偶然が重なって……?いや、しかし……」と考え始める。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
考え中すみませんが、今度はここが何処で貴方々が何者なのか……教えて頂けますか?
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
この世界はツイステッドワンダーランド。ここは魔法士養成学校ナイトレイブンカレッジで、俺は教師のデイヴィス・クルーウェルだ。そこに居る仔犬はデュース・スペードと、モンスターのグリムだ
柿助
柿助
猫なのに学校通ってるのか
ルリオ
ルリオ
というか、仔犬って……
グリム
グリム
だからオレ様は猫でも犬でもねぇんだゾ!
津雪 憐覇
津雪 憐覇
ツイステッドワンダーランド……不思議の国みたいですね。それに、教師でしたか
一見、信じられない話にも聞こえるが、魔法薬の補習や、クルーウェル先生のような変わった方が先生というのも、此処が本当に異世界ならば有り得なくはないなという考えに至った。
シロ
シロ
憐覇様、オレ達どうやって帰るの?
てか、帰れるの?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
……どうでしょうね。試してみましょうか。すみませんが、クルーウェル先生一歩後ろへ下がって頂いてもよろしいですか
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
……何をする気だ?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
元いた世界の地獄に帰れるか……試しに“地獄の門”を開きます。
生きてる間に地獄へ堕ちたくはないでしょう?私達は生きてる人間には手出しはしませんが
グリム
グリム
地獄に帰るって……コイツら危ない奴等なんだゾ
クルーウェル先生が一歩後ろへ下がり、私は地獄の門を開ける。私は地獄に居るごく一般の獄卒や雪女とは違い、何故か特殊な個体となっているのでこの力は私にしか使えない。
本来ならば、お迎え課として現世でうろちょろしてる亡者やらをあの世に連れていく際に使う力だ。
少しすると床に穴が広がり、その先は奈落の底。
そこからあの世……地獄へ繋がっている。
この穴から落ちれば地獄だが、正式な裁判を行わない限り地獄行きは確定では無い。なので、亡者達を穴から落とす際は“一時的”に地獄に堕ちると説明するのが正しいだろう。だが、私はそうは言わない。半ば脅し的な意味で「地獄に堕ちましょう」と相手には言っている。
デュース・スペード
デュース・スペード
ゆ、床に穴が……!?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
……!
地獄の門は開いたが、バチッと電気が走る。まるで結界でも貼られているかのように、下へと行けない。
ルリオ
ルリオ
底に地獄は見えるのに、下へ行けない……?これは帰れないって事ですかね?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
地獄の門が開いた時点で地獄とは繋がっている訳ですし……この結界のようなものを解けば地獄には帰れるはずですよ
柿助
柿助
でもどうやって解くんですか?
柿助さんに聞かれ、先程どこかへ消えてしまった火の玉のうちの一つを思い出す。その火の玉は他の火の玉とは違って電気のようなものが走って居た。
恐らく、あの火の玉を捕まえればこの結界は解かれるだろう。
その事をシロさん達に話すと、「火の玉ー?」と三匹は首を傾げた。
シロ
シロ
火の玉あったの?気付かなかった。
そもそも、俺が壊した機械ってなんだったの?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
烏頭さんが造った魂回収の……“魂”?
本来、現世に彷徨える魂とは亡者をさす。
そして亡者は人の形をした幽霊となって彷徨っている訳だが……烏頭さんは鬼灯様に機械を見せ、一度使用していると言っていた。
先程見たものが、機械によって吸い取られ、火の玉になった亡者の魂ならば?
取り敢えず地獄の門を閉じて考えると、携帯が鳴る。携帯の電波すら繋がっているわけだし、やはり地獄に帰れない訳では無い。謎の結界を解くまでは。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
すみませんが、電話に出ても?
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
構わんが、よく繋がったな
グリム
グリム
コイツらの話が全て事実だとして、地獄の住人って普通に携帯持ってるのか……
電話の番号は烏頭さんだが、私は「はい。どちら様でしょうか」と念の為確認する。
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『もしもし、俺烏頭だけど憐覇?』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
はい
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『良かった繋がった!お前等何処にいんだ?機械は壊れるわ、お前とシロ達が消えるわでびっくりしたぜ』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
シロさん達なら一緒にいます。所で烏頭さん、貴方の造った機械に異世界に飛ぶような機能でもついてるんですか?
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『はぁ?あるわけねーだろそんなの。人姿の亡者を吸い、火の玉にして魂一気に回収するだけの機械だっつーの。ま、それは亡者の魂に“じか”に触れるって意味でもあるからな。デメリットとして色んな“念”が溜まり、魂同士が融合して大きくなったり、溜まった“未練”や“念”が強ければ強い程、予想外の問題が起こるかもしれないから今日改良してたわけだけど』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
前半の答えは予想してましたが……後半の予想外の問題とは?例えば?
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『予想外は予想外だから俺だって何起こるかは想像もつかねぇかな。まだ一回しか使ってないし。でも逆に言えば、なんでも起こりうる可能性もある。それこそ、強すぎる想いが具現化して人を襲うとか、誰かの体に入っちゃうとか』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
貴方なんてもん造ってるんですか。
てか、そんなもんよく造れましたね
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『何?何かあったの?』
烏頭さんに事情を話すと、「マジか!」と声を上げて驚く。烏頭さん曰く、機械に回収された魂は何かしら未練や、願望などの念を持っている。そして、シロさんが押したボタンは魂を吐き出すボタンで、ボタンが押された際に溜まった魂の念が爆発したのだとか。改良中だったこともあり、魂を鎮める機能が上手く起動していなかったらしい。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
あの火の玉……一応亡者なんですよね?亡者の魂なんですよね?
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『おう』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
なら何故早くこちら側に引き渡さなかったのでしょうかねぇ?人の姿に戻して裁判を行う必要もあるというのに……
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『鬼灯にも同じ指摘されてたし、そうしたかったのは山々だけど、試しで使ってみてから上手く起動しない機能とかが判明したからさー。仮に魂吐き出す時に人の姿に戻んなくて魂だけどっか行っちまったら面倒だし、閉じ込めるために機械の中に入れっぱにしてた』
その魂がつい先程一気に異世界のどっかに消えちまった訳だが……どうしてくれよう。
烏頭さんを問いただすのに夢中になっていたが、静かに待ってくれているクルーウェル先生とデュースさん達を見て、烏頭さんに対し呆れながら小さく溜息をつく。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
取り敢えず要約すると、“強い念を抱いた魂が集まり、それが爆発したことによって私達が異世界に飛ばされるという予想外の出来事が起こった”……でしょうかね?
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『そうなるな。なんでも起こりうるわけだし』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
貴方の“なんでも起こりうる”の中に、異世界に飛ぶという可能性が入っているのが、ある意味非現実的過ぎて視野が広いとも言えますね
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『お前、俺のこと夢想家とか思わなかったか?実際に起きてる時点で現実なんだから夢ではないだろ!有り得た話だったんだろ。今回はモノがモノだし、偶然だ。それかもしくは、魂の中に現実逃避して他の世界に行きたいとか思い込んでた奴でもいるんじゃねーの?』
津雪 憐覇
津雪 憐覇
なるほど。この現実が実現する前に、貴方が異世界に飛ぶなんてこと言ってたら目覚めの平手打ちを食らわしてやるところでしたが
烏頭(うず)
烏頭(うず)
『ふん。そりゃあ残念だったな。異世界には行けるって現実で実現しちまったからな。まぁ、地獄の門に貼られてる結界みたいなものを解く為にも、頑張って火の玉探すんだな。鬼灯には伝えといてやるよ』
それだけ言うと、烏頭さんは電話を切る。
……帰ったら書類の分含め、平手打ち百発食らわす。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
どうやら、原因はこちら側にあるみたいなので、デュースさん達が偶然薬品を零したのとは関係ないみたいですね。
地獄に帰るには、電気の走る火の玉一つをみつけ、捕まえるしかありません。他に居た火の玉も回収したいとこですが、優先順位としては電気の火の玉が先です
シロ
シロ
な、なんか大事になっちゃったなぁ。憐覇様、ごめんなさい。俺が勝手に触っちゃったから……
津雪 憐覇
津雪 憐覇
それもありますが……シロさんは次から気を付けてくれれば良いです。
問題はあの“烏”じゃない鳥頭だ。
才能は認めていますが……なんて文句を言っていても仕様がないですね
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
話はまとまったか?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
はい。お見苦しい所を見せてしまいましたね。慌ただしくてすみません
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
話は聞かせてもらった。死んだ者の魂を回収しているようだな?
お前達は……地獄に住まう悪魔と言うより、死神に近い存在なのか?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
……そうでもあり、違うとも言えますね。詳しい事を話すと長くなりそうですが。それと、“悪魔”は知っていますが我々の居る地獄に悪魔はいません
デュース・スペード
デュース・スペード
地獄なのに、悪魔はいないんですか?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
“国”が違います。地獄と言ってもその国の宗教によって地獄の在り方や罰し方は違いますので。私達の居る地獄は日本地獄。悪魔が居るのはEU地獄と呼ばれる地獄です。EU地獄の悪魔は人を誘惑し陥れ、悪魔の囁きに耳を傾け、悪さをした者が地獄に堕とされますが、日本地獄は自ら犯罪に手を染めた者や、人、動物などを陥れた人間達を地獄に堕とし、獄卒と呼ばれる人ならざる鬼などの妖怪、動物達が呵責します。ここに居るシロさん達は動物の獄卒です
グリム
グリム
オマエは違うのか?地獄の住人って感じには見えないけどな
津雪 憐覇
津雪 憐覇
私も一応獄卒ではありますが……
シロ
シロ
憐覇様は普通の獄卒とは違って偉い方なんだよ!獄卒以外の役職にもついてるし!
津雪 憐覇
津雪 憐覇
それはともかく、火の玉を探さないと地獄には帰れませんね
柿助
柿助
帰れないなら、今日の夜とかどうするんですか?大分日が暮れてるみたいですけど
柿助さんに言われて窓の外を見ると、柿助さんの言う通り日が半分程沈んでいる。これでは探すのにも苦労しそうだ。
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
……ナイトレイブンカレッジを出た近くに、今は使われていないオンボロ寮がある。帰れないならそこで寝泊まりすればいい。事情は聞いたし、学園長には俺から話をつけておこう
クルーウェル先生が話すと、グリムさんやデュースさんが「オンボロ寮……!懐かしいな」と呟く。
グリム
グリム
ついこの間までは“ユウ”って異世界から現れた人間とオレ様が住んでたから、前よりかは設備が整って綺麗になってるぜ!オレ様達が先にいた事に感謝するんだな!
デュース・スペード
デュース・スペード
なんで上から目線なんだ……。ユウは元いた世界に帰ってしまって、今じゃあグリムは僕達とハーツラビュル寮に居るからな
津雪 憐覇
津雪 憐覇
そうだったのですね。
でも、よろしいのですか?
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
地獄の住人とはいえ、女性と動物を野外に放置する訳にもいかないだろう。あと数時間すれば暗くなるしな。
オンボロ寮の鍵は学園長が持っている。俺もまだ仕事があるからな。
十八時頃に学校の校門前で待っていろ。鍵を持って行く。
それまではその“電気の走る火の玉”とやらを探していればいい
シロ
シロ
良いの!?わぁーい!ありがとう!えーと……
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
クルーウェルだ
シロ
シロ
そう!クルーウェル先生!
シロさんがクルーウェル先生の足元に尻尾を振りながら駆け寄ると、クルーウェル先生は「気にするな」と微笑みながら片足を床につけてしゃがみ
シロさんの頭を撫でた。
デュースさんの事を“仔犬”と言ったり、わざわざ片足をつけてしゃがんだり……微笑みながらシロさんを撫でたり、もしやこの人……犬好きだろうか。
津雪 憐覇
津雪 憐覇
では、お言葉に甘えさせてもらいましょうかね。御協力ありがとうございます。ではシロさん、火の玉探しますよ
シロ
シロ
うん!でも、何処にいるのか分かるかなぁ?
津雪 憐覇
津雪 憐覇
私はお迎え課でもあります。火の玉が近くにいれば、気配で察知出来ます。幸いにも、まだ学校周辺から気配を感じ取れるのでそう遠くには行っていないはずです
柿助
柿助
流石憐覇様!
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
さて、お前達も今日はここまでだ。
今日失敗した分は明日の放課後に持ち越しだ。いいな?
早く荷物をまとめて、学校の外まで案内してやれ。俺は他にやることが出来たからな
デュース・スペード
デュース・スペード
わ、分かりました!
グリム
グリム
今日はこれで解放されるんだゾ!
というわけで、私達はデュースさん達と一緒に学校の外へと出ることになった。

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